借金については原則的にやるべきではありません。
借金をしなくて済むようにしっかりファイナンシャルプランを作り、必要なときに必要なお金を確保できるようにしておく、欲しいものがあれば貯めてから買うというのが基本です。
ただし、例外的に借金してもよいパターンが3つだけあります。
- 命や健康の危険がある場合
- 借金+利息を上回る収入を得られる場合
- 借金+利息を上回る支出を抑えられる場合
詳しくは「借金してもよい3つのパターン」という記事で解説しているので割愛しますが、特に2つめのパターンである借金+利息を上回る収入を得られる場合については「教育資金を用意した上で奨学金を借り、用意した教育資金を投資で運用すればお得ではないか?」という意見があります。
本記事ではこの意見についてマネーセンスカレッジの考えを解説していきます。
今回の内容は先ほど紹介した記事に関連する内容でもあるので、まだチェックされていないのであればこちらをご覧いただけるとさらに理解が深まります。
奨学金を借りて手元のお金を投資に回すのは「得」ではある
まずはこの方法はやってみる価値があるものなのか、つまり本当に借金+利息を上回る収入を得ることができるのかについて検証してみましょう。
学資関連の借金に関しては、親が債務者となる教育ローンと子どもが債務者となる奨学金の2種類があります。
教育ローンは国のものか銀行のものしかなく、民間の銀行の場合は固定金利3〜4%程度で国だと固定金利が1.8%程度です。
対して奨学金は日本学生支援機構のほか、地方公共団体や国、民間企業や大学など借りる場所や種類が豊富にあります。
代表的な奨学金事業を行っている組織である日本学生支援機構では、奨学金が第一種・第二種・給付型とあり、うち給付型は返還不要、第一種は無利子です。
給付型と第一種は内容がいい分もらえる条件も厳しくなるため、多くの方は条件が緩くほとんどの方が利用できる第二種を利用することになるでしょう。今回は第二種奨学金を借りた場合を考えます。
第二種奨学金は固定金利(固定利率方式)と変動金利(利率見直し方式)のいずれかを選べます。貸与が終了した時期によって異なりますが、固定金利の場合は0.2〜0.5%、変動金利の場合は0.004〜0.04%ほどになっています。
利率については日本学生支援機構HPで公開されていますので、今の利率を確認したい方はこちらをご覧ください。
投資方法についてはマネーセンスカレッジが推奨している「全世界投資」の場合を考えてみます。
全世界投資では期待利回りが7%、平均利回りが5%を目指せる運用を行っています。この場合で考えてみると、まず民間の銀行の教育ローン(固定金利3〜4%)は厳しいでしょう。
固定金利は確実にかかる金利である一方、投資の運用益は金利が変動しています。
平均利回り5%はあくまで1年の平均値であり、実際は価格が上がったり下がったりと波を打ちながら成長しているため、時期によっては利ざや(借金の利息と投資で得た利子の差で得られる利益)が取れない場合があるのです。
金利差が大きい場合は価格が下がっている時期でもプラスかもしれませんが、民間銀行の教育ローンの場合は全世界投資の平均利回り5%に対して固定金利が3〜4%と金利差がかなり小さいので損するリスクが非常に高くなります。
教育ローンの場合は通常、返済期間が最長でも15年ほどあるため、その期間運用すると考えると問題はないかもしれません。
しかし、借金の利息が固定金利で投資の運用益が変動金利ということを考えるとそれでもリスクを取りすぎていると判断できるため、民間銀行の教育ローンは選択肢としては却下です。
その他の国の教育ローンや奨学金との金利差を考えると十分メリットはあるといえるでしょう。もっとも金利が低い奨学金の場合を考えてみます。
4年制大学で第二種奨学金制度で最高月額12万円を借りた場合の合計金額は576万円。4年間借りて固定金利の場合だと令和4年4月の利率(0.468%)で利息は約29万円です。
借りた金額576万円と同額を4年間全世界投資で運用した場合は平均利回り5%で利益は約124万円となりました。

この利益から支払利息を差し引いても100万円近くの利ざやが手元に残ることになります。
このシミュレーションを見ても合理的に考えて明らかに「お得」ではあるといえるでしょう。
実行するために必要な2つの条件
前項で解説したように、合理的に考えれば奨学金を借りて手元にある学資に充てる予定だったお金を投資に回せば、借金+利息を上回る収入を得られる算段がつくため、奨学金を借りて運用したほうが合理的で賢い判断ともいえるでしょう。
しかし、この方法を実行するには以下の2つの条件をクリアする必要があると考えています。
- いつでも返済できるだけのお金をすでに持っていること
- 親子ともに十分なマネーリテラシーを持っていること
一歩間違えれば儲かるどころか転落人生になるリスクも潜んでいるため、この2つができる自信がなければやるべきではありません。それぞれについて以下より詳しく解説していきます。
条件1.いつでも返済できるだけのお金をすでに持っていること
これはつまり奨学金を借りる前の時点で学資に充てられるだけのお金をある程度作っており、奨学金や教育ローンを借りたときにいつでも返済できる状態になっているということです。
要は、決してこの方法を取るから学資は貯めなくていいというわけではないということです。
それはまったくの間違いですし、そもそも計画を立ててお金を用意できないような人は借金をして投資をするなどできるわけがありません。
ギャンブルのためにお金を借りる人と何ら変わりませんし、当然すすめることはできません。その前にやるべきことがあるはずですね。まずは家計をととのえることからはじめましょう。
積立投資や貯蓄をして学資を貯めており、すでに学資は払える状態にある上で、奨学金を借りてそれを学資として使い、借りていなかったら学資になる予定だった自分自身のお金は運用を続けておいて利ざやを得るというのがベストです。
奨学金は本来の目的(学費・教材費・学生本人の生活費など)から外れるべきではありません。投資の運用資金として奨学金を借りるのは奨学金制度の趣旨から大きくかけ離れています。
自分自身が持っているお金については使うも使わないも自由です。進学を控えた他の兄弟のために資産を残しておきたいなど家庭ごとの事情もあるでしょう。
奨学金はきちんと奨学金として使い、運用するのは自身のお金であることを理解して、この方法を実行するしないにかかわらず学資を用意するために計画的に積み立てておく必要はあるということを誤解しないようにしてください。
条件2.親子ともに十分なマネーリテラシーを持っていること
ここでいうマネーリテラシーをもっと噛み砕いて説明するならば「親だけでなく子どもも借金の内容を理解し、お金と欲望をコントロールできること」です。
もし教育ローンを借りて実行する場合は債務者は親(=自分)になるので何も考えなくていいですが、奨学金は自分ではなく子どもが債務者になります。
子どもに借金を背負ってもらい、親が本来学資に充てるものであった自身のお金を運用に回して、卒業後に運用したお金で返済の援助を行うという形になりますね。
のちのち親が返済を援助するとはいえ、子どもが債務者になるので子ども自身がしっかり借金の内容と目的を理解して納得していなければなりません。
子どもも思うところはあると思うので十分に話し合ってください。
当然子どもが納得してくれないこともあります。実行しないという結論になった場合もきちんと大学に行かせてあげられるように自身でお金を準備しておくことは必要なのです。
親子ともども借金の内容を理解した上で実行すると、先述したように第二種奨学金の満額576万円分を全世界投資で運用した場合は124万円ほどの利益が生まれることになります。
そのため、子どもが大学を4年で卒業する頃には本来学資として消えるはずだったお金も含めて700万円ほど親の口座で増えていることになるわけです。
当然このうち約600万円は利息含めた奨学金返済分として親から子どもに渡される予定のお金です。年間110万円以上の贈与には贈与税がかかるため、約600万円の返済の場合は6年に分けて100万円ずつ贈与するというふうに税金がかからない形がよいでしょう。
このお金の贈与の前後で親もしくは子どもがお金と欲望をコントロールできなかった場合、簡単に言えば「大金に目がくらんでしまった場合」に大問題が起きる危険性があります。
親の口座に入っている約700万円は、今後も運用を続ければ複利の力でさらに大きなお金を生み出す見込みがあります。
しかし、このお金のうち約600万円は子どもに贈与しないといけないお金のはずですよね。
今手元にあるお金、そしてこれからもっと増えていくであろう未来のお金に目がくらんでしまうと、お金を子どもに贈与するのが惜しくなってしまい、ついには「働いたらお金を稼げるんだから奨学金は自分で返せ」と渡すべきお金を渡さなくなってしまう可能性も十分に考えられます。
こうなってしまうと、子どもが一方的に借金を背負って社会に出てしまうという悲しい結果になってしまいます。決してありえない話ではないのが怖いですね。
逆に子どものほうは贈与の後に落とし穴が潜んでいます。
上記のように贈与のスケジュールを定めた場合、6年にわたって100万円が手元に入ってきます。働き始めたばかりの人にとって大金といえる金額が一気に自分の口座に入ってくるわけですね。
しかしこのお金は「借金返済」のためのお金なので自由に使ってはいけないお金。そのことを理解して使いたいという欲望をコントロールできなければ、欲に目がくらんでついついどうでもよい買い物にお金を使ってしまいます。
結果、借金は残ってしまい自力で返さざるを得なくなるという事態に陥ってしまうわけですね。

大金は時に人を狂わせます。自分だけなら自己責任で済ませられますが、奨学金の場合は親が子を巻き込んでいますので最悪家庭に亀裂が入ることもあるでしょう。
このようなリスクについて重々理解し、欲望や感情を制御できる自信がなければ手を出さないほうがよいでしょう。そのくらいシビアに考えたほうがよいですね。
マネーリテラシーや金銭教育の基本の内容として以下のような記事がありますのでぜひお役立てください。
お子さまに対する教育向けの記事としてはこちらもおすすめです。
安易な考えで手を出すのはNG!事前の用意と親子のマネーリテラシーありきの方法
子どもが生まれたときもしくは生まれる前から大学資金も考えた上でファイナンシャルプランを立て、貯蓄や投資で積み立てていくことは大前提です。
これが実行できている上で合理的に考え、奨学金の金利が低いので利ざやを稼いでみようと考えることは、親子ともに十分なマネーリテラシーを持ち合わせており、お金や欲望をコントロールできるのであれば問題ありません。
マネーリテラシーもない人間が単に儲かるという安易な考えだけで飛びついてしまうと、一度踏み外せば子どもが大きな借金を背負って社会にでることになります。もしかしたら親子の関係も悪化してしまうかもしれません。
あなたが親であるなら、まずはあなたがお金や投資について勉強して実際に学資を用意できるだけの資産形成をはじめてみましょう。
そして、実践していくことで得た知識や経験、感じたことなどを金銭教育として子どもに伝えてあげてください。特にお金を貯めたり投資をしたりする際のメンタル面などは、経験していないとなかなか伝えられるものではないため、子どもにとって良い教育になります。
このような教育をしっかりと行い、マネーリテラシーとコントロール力に親子ともに自信があるならチャレンジしてみましょう。
少しでも自信がないならやめておくべきです。
ここで忘れてはいけないのが借金せず普通に全世界投資をするだけでも十分に学資、そしてあなたの老後までのお金を用意できるということ。
奨学金を借りて自身のお金を投資に回すということは難しくても、全世界投資そのものの手法は難しくありませんので、自分のお金だけで全世界投資に取り組んでみましょう。