確定拠出年金では基本的に毎月一定額の掛金を拠出します。ただ「ボーナス月にまとまって拠出したい」というような方のために、年に1回だけ拠出したり、隔月で拠出したりできる仕組みがあります。この仕組みを「年単位拠出」といい、2018年から導入された制度です。
今回の記事では確定拠出年金の年単位拠出について、メリット・デメリットや利用すべき方を解説します。
年単位拠出の仕組みを知らない方はもちろん、「年単位拠出」と「毎月拠出」はどちらを使うべきか悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
年単位拠出は拠出金額を年単位でまとめて支払える制度
年単位拠出とは、今まで月単位で管理していた拠出金額を年単位でまとめて支払うことができる制度です。毎月だけではなく、1年に1回や四半期に1回、隔月など期間を変えて掛金を拠出することができます。
基本的に確定拠出年金では毎月ごとに一定金額を拠出します。
ただ月払いで拠出している場合、拠出限度額よりも少ない金額で拠出すると不足している金額の枠は使えませんでした。たとえば、毎月の拠出限度額が6.8万円のところ1月に3万円を拠出した場合、残りの3.8万円は翌月以降にお金の余裕があっても拠出できなかったのです。
普段の拠出額を抑えて、賞与などをもらってお金に余裕がある時に大きく拠出するといった運用ができない問題点がありました。
そこで2018年より「年単位拠出」が導入されました。隔月や半年に1回など拠出期間をフレキシブルに変更できることで、自分の家計の状態に合わせて拠出することが可能です。
年単位拠出の拠出区分
年単位拠出では、12月分から翌年11月分の拠出期間を1年と定めます。この拠出可能期間で加入者が任意に区分して拠出月を決めます。
任意に区分した期間を「拠出区分」と呼び、たとえば拠出区分を12〜3月、4〜7月、8〜11月とした場合は年3回掛金を拠出することになります。
ただし、経過した月数分しか拠出できません。したがって、拠出区分を12〜3月、4〜7月、8〜11月とした場合は12~3月分を4月に、4〜7月分を8月、8〜11月分を12月にそれぞれ掛金を拠出できるということです。
経過した月数分しか拠出できないので、年始に全額をまとめて支払うこともできません。全額まとめて支払いたい場合は、拠出可能期間の最終月である11月(12月引き落とし)に支払うことになります。
拠出限度額の計算方法
年単位拠出の拠出限度額は、拠出区分の月数に毎月の拠出限度額を乗じた額がその拠出区分の拠出限度額になります。
拠出区分の月数×1ヶ月の拠出限度額=拠出区分の拠出限度額
例として、iDeCoに加入し拠出限度額が毎月6.8万円、4ヶ月ごとに拠出するように設定したとしましょう。
この場合の各拠出区分の拠出限度額は「27.2万円(6.8万円×4ヶ月)」となります。
ただ、実際に利用を始めると掛金を拠出限度額まで拠出するのが難しいことがあります。前述した例でいえば、4〜7月の拠出限度額は27.2万円ですが、家計の状況や出費がかさんで実際には20万円だけしか(拠出限度額は27.2万円)拠出できなかったという状況ですね。
拠出区分の拠出限度額よりも実際の拠出額が少ない場合、差額分を次回以降の拠出区分に繰り越すことが可能です。
4〜7月に20万円だけしか(拠出限度額は27.2万円)拠出できなかったのであれば、残りの7.2万円の枠は8〜11月の拠出限度額にプラスして拠出できます。そのため、8〜11月の拠出限度額は34.4万円(7.2万円+27.2万円)になるということです。
ただし、拠出限度額の枠を翌年に繰り越すことはできません。8〜11月の実際の拠出額が20万円だったとしても、翌年の枠に残りの7.2万円を繰り越すことはできないということです。
また「iDeCo」で年単位拠出を利用する場合、毎月最低5,000円の積み立てが必要です。もし年に1回まとめて支払う場合は6万円(5,000円×12ヶ月)以上を拠出しなければなりません。最終月に1万円だけ拠出することはできないので注意してください。
拠出限度額については「確定拠出年金の拠出限度額」の記事で詳しく解説しています。拠出限度額は年単位拠出と深く関係する項目なのでぜひご参照ください。
年単位拠出の2つのメリット
年単位拠出の制度内容を解説しましたが、利用することであなたにどのようなメリットがあるのでしょうか。
実はデメリットの部分でも解説していますが、年単位拠出は利用するハードルが高くなっています。そのため、現状の制度で考えられる年単位拠出のメリットを2つ解説します。
1.支払いタイミングを自分で決められる
年単位拠出のメリットは、拠出するタイミングを比較的自由に決められる点です。前述したように、1年に1回や四半期に1回など支払い期間を自由に変えて拠出することができます。さらに掛金を次の拠出区分に繰り越すことも可能です。
賞与がある期間にまとめて支払いをしたり、税金や保険の支払いなどの出費が重なる月は拠出を行わないようにしたりと、自分の家計状況に合わせて拠出可能です。しっかりと計画を練って利用することで、家計を楽に管理できるようになります。
2.手数料を減額できる(iDeCoのみ)
iDeCoのみのメリットになりますが、年単位拠出を利用し拠出頻度を下げることで毎月支払う手数料を減額できます。
iDeCoは開設時や毎月ごとに手数料を自分自身で支払わなければなりません。
毎月かかる手数料は全体で171円ですが、年単位拠出で拠出頻度を下げても全額が下がるわけではありません。
毎月の手数料171円は3つの手数料を合計した金額になります。
- 運営管理機関手数料:実質0円
(証券会社などに支払う手数料だが、キャンペーンなどで無料になっている) - 事務委託先金融機関手数料:66円
(信託銀行などに払う、拠出してもしなくてもかかる手数料) - 国民年金基金連合会手数料:105円
(拠出1回あたりにかかる手数料)
年単位拠出を利用して拠出回数を減らすと「国民年金基金連合会手数料:105円」の手数料を抑えられます。
105円の手数料は拠出した回数によって決まるので、たとえば隔月拠出(2ヶ月に1回)にした場合は6ヶ月間分の手数料はかからないということです。
最大で減額できる金額は年1回でまとめて拠出した場合の「1,155円(=105円×11カ月)」になります。
年単位拠出の3つのデメリット
マネーセンスカレッジでは確定拠出年金で年単位拠出は採用する必要はないと考えています。現状の制度では、上述したメリットよりもデメリットのほうが多く、運用結果にも影響する部分があるためです。利用を検討している方はデメリットの内容をきちんと把握して、導入するか判断してください。
1.ドルコスト平均法の強みが発揮されない
年単位拠出を利用して拠出期間を隔月や半年に1回など「毎月以上」の単位にした場合、ドルコスト平均法の強みが発揮されず運用効率が落ちるデメリットがあります。
ドルコスト平均法とは、一定期間ごとに決まった金額で金融商品を購入し続ける投資手法です。
一定間隔で金融商品を買うことで、価格が高い時は購入量(口数)が少なくなり、価格が低い時は購入量(口数)を多くできます。
詳しい内容は『積立投資の王道「ドルコスト平均法」とは?誰もいわない”数量”の秘密』の記事で解説しているのでぜひご参照ください。
ドルコスト平均法は一定期間ごとに金融商品を購入しますが、この期間というのは毎日や毎週、毎月、半年、毎年などさまざまな単位があります。複数の単位がある中で、少なくとも「毎月以上」の単位で積立投資を行うと運用効率・利回りが落ちることがわかっています。
マネーセンスカレッジがサービスを開始した2003年1月からのデータを使用して、日経平均とTOPIXの購入頻度別に年利回りとリスクを計算してみました。
表をみてわかるように購入頻度が1ヶ月以上になると年利回りは徐々に下がり、一方でリスクは上昇していく傾向にあります。
今回は2種類のアセットしか表示していませんが、マネーセンスカレッジが推奨しているすべてのアセットで計算をしても同じ傾向がみられました。
このように年単位拠出を利用して拠出頻度を毎月以上にした場合は運用効率が下がる可能性があります。
投資を行う理由は資産を増やすことです。運用効率や利回りが落ちる可能性がある年単位拠出をあえて利用する必要はありません。
もし年単位拠出を利用する必要があるとすれば「手数料を安くしたい」ということでしょう。
ただ、前述したように年1回拠出にしたところで「年間1,155円」しか安くなりません。その分、年利回りは下がり、リスクは上昇するので目先の手数料よりも将来の利益を優先することをおすすめします。
2.利用するための手続きが複雑になっている
2つめのデメリットは、申請手順が複雑だったり、利用することで別の作業が発生したりするなど、年単位拠出を導入する手続きが複雑になっている点です。
必要な手続きは個人型か企業型かによって変わるので、企業型DCとiDeCoそれぞれの申請方法を簡単に解説します。
企業型DC:DC規約の「規約変更」が必要
企業型DCで年単位拠出を導入するためには、企業が定めるDC規約の「規約変更」が必要になります。加えて事前に掛金の年間計画書を提出しなければなりません。企業側としては、2つも事務手続きが増えるため年単位拠出は採用しづらくなっています。
さらに年単位拠出を採用している企業型DCに加入している場合「iDeCo」を併用することができなくなります。
企業型DCの掛金は企業が決めるため、制度の重要性を理解していない会社では掛金が定額な場合があります。毎月拠出を採用している企業型DCであれば、基本的にiDeCoに加入して掛金を増やすことができました。
しかし、年単位拠出を企業型DCで採用している場合はiDeCoが併用できないので掛金は低いままになってしまうということですね。
iDeCo:「加入者月別掛金額登録・変更届」が必要
iDeCoで年単位拠出を利用するためには、事前に掛金の年間計画を記載した「加入者月別掛金額登録・変更届」を書類で提出する必要があります。
加入申出をした翌月以降で、掛金を拠出する希望月に金額を記入しなければなりません。たとえば、7月に加入した場合は8月以降から拠出できるようになります。
さらに年間の掛金合計額も記入し、翌年以降の掛金額も記入する必要があります。ネット証券のように簡単に追加投資ができるような仕組みにはなっていないので、年単位拠出を利用する際には非常に手間がかかってしまいます。
3.確定申告が必要になる場合がある
年単位拠出を利用することで確定申告が必要になるケースがあります。
特にこれは企業型DCを利用している方やiDeCoを利用していて掛金を企業から受け取る給与から拠出している方に当てはまります。いわゆる、会社員で確定拠出年金を利用されている方々ですね。
iDeCoを利用しており自分の銀行口座から拠出している場合は、そもそも確定申告が必要なので従来の手順に沿って確定申告を実施します。
一般的に会社員の方は確定申告を行いません。会社で年末調整を行って会社が申告をしてくれます。ただ、企業型DCの年単位拠出を利用した場合「小規模企業共済等掛金払込証明書」を会社に提出しなければなりません。
この証明書が届く時期によっては年末調整に間に合わず、自分で確定申告を行わなければならなくなります。
年単位拠出を利用してもいい人は?
繰り返しになりますが、基本的に年単位拠出はおすすめしていない拠出方法です。ドルコスト平均法の強みが発揮できませんし、手続きも増えるので利用者の負担が多くなります。
ただし、確定申告がすでに必要な方で、なおかつ非投資商品を購入し続けるのであれば、家計や投資結果に与える影響は少ないので年単位拠出を利用しても問題ありません。
前述しましたが、年単位拠出のデメリットとして確定申告が必要になるケースがあります。慣れている方ならすぐにできますが、会社員などで確定申告をしたことがない方にとっては非常に手間な作業です。
ただ、会社員であっても以下の条件に当てはまる方はすでに確定申告が必要な場合があります。
- 持病があって毎年医療費控除が必要
- 給与以外の収入がある
- ふるさと納税を6ヶ所以上に行っている
- 収入が2,000万以上ある
このようにすでに会社員で確定申告を実施する予定がある方は、年単位拠出を利用しても手間は変わりません。もちろん、自営業者なども同様です。
ただし、プラスして非投資商品に積立を行うことも条件です。
前述したように、拠出回数を毎月以上にすることで運用効率が下がってしまいます。
ただ、ドルコスト平均法の強みは「積立”投資”」を行う際に発揮されるものです。そのため、通常の定期預金のようなものへの「積立”貯蓄”」であれば、拠出期間が資産に与える影響はありません。
確定拠出年金には「元本確保商品」が用意されており、定期預金のように利用できます。したがって、元本確保商品のような非投資商品を購入する場合は年単位拠出を利用してまとめて支払うことでも問題はないでしょう。定期預金で利用したとしても所得控除や退職所得控除などの税制優遇は受けられます。
年単位拠出は基本的におすすめしていないので利用は計画的に
年単位拠出は拠出期間を自由に決められたり、手数料が安くなったりするメリットがありますが、利用手続きが大変で運用効率も下がるといったデメリットがあります。
そのため、基本的には通常通りに毎月拠出をおすすめします。
また、2024年12月以降は企業年金制度(DBなど)に加入している方と共済組合員(公務員)はiDeCoの年単位拠出を利用できなくなります。
最終的にiDeCoの掛金について「年単位拠出」が可能な人は以下の3区分のみとなります。
- 事業主の拠出がない国民年金第1号被保険者
- 企業型DC、DB等の他制度のいずれにも加入していない国民年金第2号被保険者
- 国民年金第3号被保険者
この3区分のみとなり、iDeCoの年単位拠出を使える方はかなり制限されます。企業型DCとiDeCoの両方を利用できるように制度改正が進む中、年単位拠出は縮小されていくことになるでしょう。
投資を行う際は毎月で拠出する方が管理も楽ですし、家計とのバランスも調整しやすいです。
しっかりと家計を管理しファイナンシャルプランを練っていれば、毎月一定額を拠出することは簡単です。マネーセンスカレッジの「家計管理の方法」や「ファイナンシャルプランの立て方」などの記事をチェックすると計画的に拠出できるようになります。
さらに企業型DCに加入されている方は、年単位拠出以外の拠出方法もあるので本記事と併せて読んでいただき、改めてどのように拠出するか検討してください。
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