老後資金を途中で取り崩してしまう人の共通点。投資を守るのはコレ
投資は続けることが最も大切であり、最も難しいことだとよく言われます。その理由の一つに生活防衛資金の確保があると聞きますが、俄かには信じがたいと感じる人も多いはずです。そこで今回は、データを示すことをテーマにしました。投資経験や書籍などから感じることはあるものの、ここに来て生活防衛資金がないと投資がうまくいかないという内容のレポートが、各所から数多く出されています。
今回紹介するのは、低コストのインデックスファンドで知られるアメリカの資産運用会社、バンガード社が作成したレポートです。英語で書かれたものを翻訳しており、機械翻訳のため多少不自然な日本語になっている部分もありますが、意味は十分に伝わる内容になっていますので、その内容を紹介しながら見ていきます。
バンガード社のレポート(1:09)

出典:バンガード社
レポートのタイトルは「なぜ401kの加入者は老後資金を途中で引き出してしまうのか」というものです。まず制度について説明すると、401kとは日本の確定拠出年金のいわゆる輸入元になった制度で、老後資金を貯めるために自分自身で投資を行う確定拠出年金口座のことを指します。日本のiDeCoや企業型DCといった確定拠出年金は基本的に現金を引き出すことができませんが、この401kは引き出すことが可能です。ペナルティが発生する場合もありますが、生きたお金として引き出せてしまうため、こうしたレポートが作成された背景があります。
レポートではまず、緊急予備資金が401kからの資金流出を減らすという結論が示されています。収入の変動性と資金流出の関係から、多くの加入者が流動性の高い緊急予備資金を持っていないために401kから資金を引き出している可能性が示唆されており、この仮説をより直接的に検証するため、2024年にバンガードが管理する401kプランに加入していた2300人を対象に、緊急予備資金について尋ねる調査が行われました。
具体的には「約2000ドルかかる緊急事態が発生した場合、その支払いに必要なお金を用意できる自信はどの程度ありますか」という質問が投げかけられ、「十分に自信がある」「ある程度自信がある」「全く自信がない」の3段階で回答を得ています。結果は「十分に自信がある」が52%、「ある程度自信がある」が24%、「全く自信がない」が24%でした。約2000ドルは日本円に換算すると約30万円程度になり、実際の緊急事態の出費規模としても近い金額といえます。この結果から、「十分に自信がある」と回答した52%を、緊急予備資金を持っていると見なしています。
収入の変動が大きい時給制労働者は、2000ドルの緊急予備資金を持っている可能性が低い傾向にありました。「十分に自信がある」と答えた割合は時給制労働者が39%、給与制労働者が71%という結果です。ここであえて別の見方をすると、39%という数字も、50%を基準に考えれば10%程度低いだけとも見えます。給与が低いから、収入が不安定だからという理由がよく挙げられますが、それは単なる言い訳になっている面もあり、実際に備えている人は備えています。もちろん全員に当てはまるわけではありませんが、ある程度は覚悟の問題ともいえる部分です。とはいえ、給与に余裕がある方がパーセンテージが上がりやすいことは理解できる内容であり、給与制労働者では71%という結果になっています。
さらに、緊急予備資金を持つ加入者は401k口座への拠出額が多く、在職中・退職後のいずれにおいても引き出しが少ないことが分かりました。緊急予備資金、いわゆる生活防衛資金を持っている人は拠出額が多くなる傾向があり、なおかつ拠出から引き出す割合も低いという結果です。これは年収や年齢、勤続年数を調整した後でも変わらない結果でした。
加えて、この調査の後に離職者を対象とした追加調査を行ったところ、2000ドル以上の緊急予備資金を持つ加入者は、現金化を行う可能性が43ポイントも下がったという結果が出ています。緊急予備資金はおおよそ3ヶ月分の生活費に相当すると考えられますが、その程度の緊急バッファーであっても大きな効果があることが示されています。
グラフで示された効果を見ると、2000ドルの緊急予備資金を持つことで拠出率は2.2%上昇する傾向があり、借入れ発生率は19.2%のマイナス、生活が苦しくて引き出す割合も17.4%のマイナス、現金化する割合に至っては43.3%のマイナスという結果になっています。いずれもパーセンテージポイントでの数字であり、かなり大きな差といえます。ほぼ現金化する必要がなくなるといっても過言ではない結果です。
レポートからわかる2つのこと(7:11)
このレポートから分かることは、大きく分けて2つあります。1つ目は、当たり前のことではありますが、生活防衛資金が必要だということです。生活防衛資金がないと、緊急時に投資を取り崩す可能性が高くなります。日本のiDeCoや企業型DCの場合は途中で引き出せないため、その分ほかの投資商品を取り崩すことになります。お金がどうしても必要になった場合、それが投資に回っていたとしても現金化せざるを得なくなり、投資を取り崩してしまう最大の要因は自分自身にあるということでもあります。
2つ目は、iDeCoや企業型確定拠出年金が60歳まで引き出せないという点は、デメリットとして語られることが多いものの、実はメリットともいえるという点です。確かに流動性は下がりますが、ファイナンシャルプランは必要な時に必要なお金があってこそ機能するものであり、いくら口座の中にお金があっても、使いたい時に使えなければ意味がありません。だからこそ計画性が非常に重要になります。とはいえ、この計画はざっくりとしたものでも十分機能するので、むしろ長期投資を守るメリットともいえます。
ここに対しては、余剰資金として置いておいてもお金は運用に回らないのではないか、必要な時に取り崩せばいいのではないかという反論もあるかもしれません。それも一理ある考え方で、直販ファンドなどでは、いつでも引き出せる余剰資金のように使ってほしいと案内されることもあります。ただし、そうしたファンドはほぼ株式のみで構成されていることも多く、下手をすると元本割れが起きる可能性もあります。もちろんピークから下落している局面もあり得るため、長期投資が前提になるとはいえ、その長期投資の期間中、たとえば10年の間に何かが起きてしまった場合に生活費がなかったらどうするのか、という問題が残ります。だからこそ計画が大事になってきます。
10年以内に使う予定のない資金であっても、個人向け国債や債券で運用している人もいます。それを途中で売却すると、タイミングが悪ければ元本割れが起きることもあります。個人向け国債であれば元本割れはしませんが、思ったような利回りにならないこともあります。そういう意味でも、プランニングが計画通りに進むためにはバッファーが必要になります。
生活防衛資金として置いておく金額が運用されないことについては、確かにその分はお金を生み出さないという側面はあります。ただ、今の普通預金でも0.5%程度の金利はあり、インフレには負けてしまうかもしれませんが、全額が目減りするわけではありません。定期預金であれば基本的に1%を超える金利がつくこともあり、途中で解約したとしても、預金時の利率か、その一部にあたる利回りになるだけで、元本割れはしません。
こうしたセーフティネットは損得だけで考えるものではなく、年金や医療の問題も同様です。運用するお金と運用しないお金はきちんと分けて考える必要があり、24時間以内に必要になるお金は手元に置いておくべきです。投資や貯蓄は目的ではなく期間で考えるべきものであり、これはファイナンシャルプランの中でも鉄則といえる考え方です。
日本の生活防衛資金の保有率(11:14)
日本ではどうかというと、 J-FLECが2025年に3万人を対象に行った調査でも、同じような結果が出ています。投資に限らず、病気や失業、不況などの万が一の事態に備えて、3ヶ月分の生活費を確保しているかという質問に対し、「確保している」「確保していない」「わからない」の3択で回答を得たところ、アメリカの調査と似たような割合になっており、日本の方がやや確保している割合が高い傾向にあります。ただし「わからない」と答えた人は、実質的には確保していない人とほぼ同じと考えられるため、そう考えると、確保しているといえる人は半数を少し上回る程度にとどまります。半数をわずかに下回るくらいの人は確保できていないということになり、これは克服すべき課題といえます。
この動画を見ている人のうち約半数は、おそらく生活費の3ヶ月分という最低限の生活防衛資金すら準備できていない可能性があります。それが本当にお金がないからなのか、それとも必要以上のお金を投資に回してしまっているからなのかは分かりませんが、少なくとも投資は10年以上の長期で続けることが前提になるため、その間に取り崩すことがないようにしなければなりません。そのためにも生活防衛資金は絶対に必要であり、これは投資をするかどうかに関わらず、すべての人にとって大切なお金といえます。
生活防衛資金は働いていないお金だから、それも投資に回したいというコメントもよく見かけます。その気持ちは理解できますが、こうしたデータを踏まえると、それはあくまで最初のうちだけ強く感じるものです。
たとえば生活防衛資金として50万円や、6ヶ月分として100万円ほどを用意する場合、資産形成の初期段階ではその100万円がまったく働いていないことを辛く感じる人が多いものです。しかし、その100万円が、たとえば1000万円という資産の中の一部として存在するようになれば、それほど気にならなくなります。資産が増えるまでにどれくらいの期間がかかるかにもよりますが、300万円、500万円と資産が積み上がっていくにつれて、生活防衛資金が働いていないことへの抵抗感は徐々に薄れていくものです。目安としては大体100万円程度としていますが、それが難しければ50万円でもよく、あくまで目安として捉えてほしいところです。
6ヶ月分の生活防衛資金があれば、たいていのことには対応できる状態になります。逆に、それ以上に現金を持ちすぎてしまう人もいますが、その場合はお金がインフレに負けてしまうことになるため、運用に回すべきお金はきちんと運用に回すべきです。ちょうどよい塩梅とバランスが非常に重要になります。
まとめ(14:13)
投資は気合いと根性だけではうまくいきません。自分自身をルール化し、そのルールに沿って淡々と進めていくことが大切です。投資や貯蓄、家計運営についてできるだけ頭を使わずに続けられる仕組みを作ることが、最も成功に近づく秘訣といえます。最初にその仕組みさえ作ってしまえば、あとは自分の人生をいかに楽しむかに集中すればよいだけです。限られた予算の中でも楽しむ方法はいくらでもあるので、その中で十分に楽しむことに意識を向けることが大切です。そして、それを実現するためには長期投資が欠かせず、そのためには確立された仕組みを持つことが最も重要になります。
またこちらの動画「50代からの老後資金戦略シミュレーション【夫婦二人世帯編】」では、50代から老後資金を準備するための積立額や働き方をシミュレーションしていますのでぜひご覧ください。





