【200万円追徴も】「国保逃れスキーム」が厚労省のメスで完全終了

以前の動画でお話しした国保逃れスキームが早速規制されるというニュースが届きました。厚生労働省が本腰を入れてきたかたちです。個人事業主の方であれば国民健康保険料の高さに頭を悩ませている方も多いと思います。この問題について、投資家目線も交えながら詳しく解説していきます。

日本経済新聞では「国保逃れ是正、判定厳しく」という見出しで、年金機構への通達と、大阪維新の会での発覚について報じられています。

国保逃れスキームの仕組み(1:39)

このスキームの概要を整理します。一般社団法人を設立し、そこの理事や役員に就任してもらう代わりに、低い報酬で社会保険に加入させるというものです。社会保険に加入できれば、国民健康保険には加入しなくてよいというルールがあります。

具体的な例を挙げると、月に約10万円を一般社団法人に支払い、その見返りとして月6万円程度の役員報酬を受け取る仕組みです。実質的な手出しは月4万円ですが、この6万円の報酬を基に計算した社会保険料は月約2万3,000円となり、健康保険にも厚生年金にも加入できます。国民年金の負担も月1万5,000〜1万7,000円程度あることを考えると、高額な国民健康保険料を回避できるというわけです

どれくらいの節約効果がある?(3:26)

維新の会の地方議員が利用していたケースでは、年間報酬が約1,400万円で、本来かかる国民健康保険料は年間110万円でした。しかしこのスキームを使うことで年間80万円を削減し、負担は30万円程度に抑えられていました。加入者は600〜700人に上り、役員としての実態がない人たちが大規模に保険料を回避していた実態がありました

なぜ役員スキームなのか(4:03)

役員は雇用関係ではなく委任関係であるため、労働時間は関係ありません。専門的な知識や経験に基づいて会社の利益に貢献することが期待される立場です。雇用・委任・請負の3種類がある中で、委任と請負は時間が関係なく、社会保険の加入要件である「週20時間以上」も適用されません。そのため低報酬でも加入でき、このスキームの中では月に10〜15分程度のアンケートに答えるだけという実態もあったとされています

【違法判断の基準①】会費 > 役員報酬(5:53)

厚生労働省が示した違法性の判断基準は4つです。まず1つ目は、支払う会費(名目は何でも構わない)が役員報酬を上回っている場合は原則NGとされました企業の利益に貢献するために役員に就任するという本来の目的に照らせば、報酬より会費の方が高いというのは明らかに目的が別にあると判断されます

【違法判断の基準②】業務内容が形式的(アンケート・勉強会のみ)(6:24)

2つ目は、業務内容が形式的であるケースです。 アンケートへの回答や勉強会への参加、あるいは他でも安く受けられるサービスを高く提供しているだけといった場合には、実態がないとみなされます

【違法判断の基準③】指揮命令・決裁権がない→役員と認めない(6:44)

3つ目は、役員や理事としての権限が実際には与えられていない場合です。役員であれば本来、指揮命令や決裁権を持つはずです。取締役会や理事会への出席、発言の記録なども確認されます。議事録がない、発言した形跡がないといった場合は、法人の経営・運営に参加していないと判断され、役員としては認められません

【違法判断の基準④】実態が無いと判断された場合→社会保険資格を強制喪失(7:21)

4つ目は、国保逃れが目的であることが形式的に認められる場合、社会保険の資格が取り消されるというものです。 これら4つの基準によって、スキームへの対処が明確に示されました

ペナルティの実態(7:40)

法令違反と判断された場合、過去に遡って社会保険の資格が喪失とされます現行法では時効が2年のため、最大2年分を遡っての国民健康保険料の請求が行われます。先ほどの議員の例では年110万円でしたから、2年分で220万円を遡って請求されることになります。また、支払っていた年会費は返金されません。

さらに深刻なのは医療費の問題です。社会保険の資格が遡って喪失された場合、その期間中に医療機関にかかっていた分は資格がなかったことになるため、本来は10割負担となります。その後、国保に遡って加入し直した際に7割が戻ってくるとしても、医療機関への手続きが必要になるなど手間も相当かかります。

脱税と異なり、社会保険料には過少申告加算税のような制度上の罰金はありませんが、健康保険法・厚生年金保険法への違反として刑事罰が適用される可能性もあります。加入者が何万人、場合によっては100万人規模に上る可能性もあり、倫理観を欠いた行為として当然の制裁を受けることになります。

真面目に国民健康保険料を払っている方々にとっても、本来入ってくるはずの保険料が入ってこないことで制度運営が圧迫されるという意味でも、公平性を著しく欠く問題です。

国民健康保険組合(12:40)

一方、完全に合法で問題のない方法として、国民健康保険組合への加入があります。戦後間もない時期に、市町村が国民健康保険を設立できなかった時代に作られた仕組みで、現在は原則新設できませんが、当時の組合が今も残っています。医師・薬剤師・建設関係・食品関係など、職種ごとに組合が存在します。劇的に保険料が下がるわけではないかもしれませんが、完全に合法な選択肢のひとつです

マイクロ法人(14:43)

社会保険料を削減するための合法的な方法として、個人事業主がもう1つ別の法人を設立し、そこから低い報酬を受け取って社会保険に加入するマイクロ法人スキームがあります。職域保険に加入できれば国民健康保険には入らなくてよいため、保険料を抑えることができます。

ただしリスクもあります。個人事業と同じ事業内容では否認されるため、まったく別の業種で法人を運営しなければなりません。1つのビジネスだけでも大変なのに、2つ運営する必要があります。また法人の維持コストとして最低でも年間40〜60万円かかります。これを考えると、個人事業の所得が少なくとも700万円程度なければ費用対効果が出ません

ダブルワーク(16:13)

もう1つの方法は、個人事業主として活動しながら、別途どこかの会社に雇用されてダブルワークをするというものです。週20時間以上働いて社会保険に加入し、低い賃金を基に計算された社会保険料で健康保険をカバーします。年間80〜100万円の削減効果が出ることもありますが、体力的な負担が大きく、若い方でないと難しい面もあります

役員報酬+賞与スキーム(18:07)

法人を持つ方が役員報酬を低く抑え、事前確定届出給与として賞与を組み合わせるスキームもありますが、これは個人事業主にはあまり関係ありませんまた厚生労働省もすでに把握しており、制度上の調整で比較的簡単に塞がれる可能性があるため、あまりお勧めできない方法です

iDeCoで国民健康保険料は減らない(19:14)

国民健康保険料は所得に連動しているため、iDeCoで所得控除を増やせば保険料も下がるのではと思う方も多いでしょうしかし残念ながら、iDeCoの掛金控除によっては国民健康保険料は下がりません国民健康保険料の計算に使われるのは「旧ただし書き所得」と呼ばれるもので、「総所得金額等から基礎控除額を差し引いた額」です。

総所得金額とは(20:43)

ここで重要なのが「総所得金額」の意味です。所得税の計算では、収入から必要経費を引いたものが所得、そこから各種所得控除を引いたものが課税所得となりますが、国民健康保険料の計算に使われる総所得金額は、所得控除を引く前の金額ですつまり、iDeCoの掛金控除はこの所得控除の段階で引かれるものであり、総所得金額には影響しません

国民健康保険料を下げるためには課税所得ではなく総所得金額そのものを下げる必要があり、そのためには必要経費を増やすしかありません。しかし必要経費を増やせば利益が減るため、そこには限界があります。

まとめ(22:23)

今回のような国保逃れは、実態がなければ違法行為にほかなりません。「知らなかった」「安易な気持ちでやってしまった」という言い訳は通りません。法の不知は弁明にならないという法格言のとおり、法令に定められていることは粛々と適用されます。

現在もフリーランス向けの支援組合などを名目にした類似スキームが存在し、「完全合法」と謳っているところもあります。なぜそれができるのかという仕組みをきちんと理解することが重要です。うまい話には必ず理由があります。投資の世界で「年利7%確約」という話が存在しないのと同じように、社会保険料を大幅に削減できるうまい話には疑いの目を持つべきです。

脱法スキームで危ない橋を渡るより、iDeCoや小規模企業共済といった国が推奨する制度を活用した正しい節税・節約を選ぶことが大切です。iDeCoは所得税・住民税の軽減効果があり、国民年金のない個人事業主にとっては老後の備えとしても有効な手段です。真面目に稼ぎ、正しい方法で資産を守ることが、長期的に見ても最善の選択といえます。

またこちらの動画「「国保逃れ」疑惑。脱法スキームを詳しく解説。マイクロ法人、賞与スキームなど類似方法との違いも。」では、脱法スキームの線引きと類似手法との違いを解説していますのでぜひご覧ください。

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