iDeCo確定拠出年金に新たな拠出枠?キャッチアップ拠出・生涯拠出枠

iDeCoや企業型の確定拠出年金については、12月に拠出限度額の引き上げが控えていることもあって、世間の注目度が高まっているように感じています。老後資金に不安を抱えているのであれば、考えているだけでは状況は変わらないので、ぜひ行動に移してほしいと思っています。NISAでも構わないのですが、iDeCoは税制優遇が強い分、資金がある程度拘束される仕組みでもあるため、利用金額については慎重に検討したうえで、それでも活用しない手はない制度だと考えています。

そうした中で、新たな拠出枠についての議論が出てきているようなので、今回はその内容を解説していきます。厚生労働省の審議会などで委員を務める方々から、すでにいくつかの提案が示されています。あくまで提案の段階であり、実際に制度に盛り込まれるかどうかはまだ未知数ですが、今話題になっているものを一緒に確認していきたいと思います。まず取り上げるのは、有力な案として出ている「キャッチアップ拠出」です。

キャッチアップ拠出(1:40)

キャッチアップ拠出とは、一定の年齢以降において、一定額の範囲内で追加の拠出を可能にする仕組みです。確定拠出年金の制度自体は2000年代初頭にできたもので歴史は長いのですが、当時は企業型による強制加入で拠出額も少なく、利用率自体が高くなかったという経緯があります。若い時期に十分な拠出ができなかった人が、退職後に向けた資産形成のために、収入が安定してくる時期にまとめて拠出額を増やせるようにしようというのが、この制度の狙いです。

具体的には、50歳から70歳までの20年間において、追加の拠出額を検討しているという状況です。この仕組みはアメリカの401kにすでに導入されており、日本の確定拠出年金制度はこの401kを参考に作られた経緯があります。アメリカでも50歳以上を対象にキャッチアップ制度が設けられており、日本での導入を検討するにあたって参考になる先行事例といえます。

アメリカの場合(3:12)

アメリカでの利用状況を見ると、バンガードのデータでは2024年時点でおよそ16%程度の利用率となっています。2014年には約18%だったので、10年でやや低下していますが、ほぼ横ばいともいえる水準です。政策効果としては一定の利用率を確保できているとも評価できますが、利用している層の属性を見ると、手放しでは喜べない実態が見えてきます。

年収15万ドル以上、日本円で2400万円前後に相当する高所得層での利用率は51%と非常に高く、口座残高25万ドル以上、日本円換算で約4000万円を持つ層での利用率も37%に達しています。これは、キャッチアップ拠出が高所得・高資産層に偏って利用されている実態を示すデータといえますアメリカの401kは非常に枠が広く、キャッチアップまで満額使おうとすると年間3万2500ドル、日本円で500万円近い金額が必要になります。年収10万ドルの人であっても、給与の32.5%を拠出しなければならない計算になり、キャッチアップに届く前の通常拠出だけでも、年収10万ドル以下の人は拠出率が20%を超える必要があるという統計も出ています。

老後資金の不足を感じて50代から頑張ろうとしても、自分の年収の2割を超える拠出をしなければ届かない制度になっているという点は注意が必要です。日本の場合は通常の拠出限度額がそもそもアメリカより少ないため、キャッチアップ拠出が導入されれば、アメリカのように高所得・高資産層に偏るのではなく、制度本来の目的に近い使われ方をする可能性もあると感じています。とはいえ拠出するための収入がなければ利用できないのは同じで、晩婚化が進む中で30歳前後に子どもが生まれた場合、大学生の子を抱えたまま50代後半に差し掛かってようやく利用できるといったイメージになりそうです。

さらに70歳まで拠出可能としても、実際にその年齢まで働き続けている人がどれだけいるかという問題もあります。60歳定年後の継続雇用が一般的な現状では、55歳から利用を始めても拠出できる期間はわずか5年、継続雇用を含めても10年程度にとどまり、制度目的を十分に果たせるのか疑問は残ります。

参考データとして、現行のほぼ限度額に近い月2万円以上を拠出している人の割合は、50代で54%、60代以降では64.2%まで上がっており、こうした層はキャッチアップ拠出の枠拡大を歓迎する可能性が高いと見ています。今年12月には限度額が月6万2000円まで引き上げられるため、この水準まで拠出を増やす人がどれだけ出てくるかはまだ読めない部分もあります。

投資や資産運用に積極的で、制度についても一定の理解がある層にとってはメリットの大きい制度になりそうですが、アメリカの実例を踏まえると、利用率自体はそれほど高くならず、高所得・高資産層優遇という批判が出てくることも予想されます。アメリカでは高所得者に対して、キャッチアップ分を課税口座に入れることを義務付けるなど、一定の歯止めをかけている例もあります。日本で導入する場合、制度が複雑になりすぎるためこうした仕組みまでは入らないと見ていますが、後に批判が出てくれば同様の対応が検討される可能性はあります。

高所得者優遇という批判については、そもそも投資をしたくない人はこの制度を利用しないわけで、利用する人に対して優遇批判をするのはやや筋が違うようにも感じています。日本の確定拠出年金を積極的に利用している層は総じて金融リテラシーが高く、年収400万円以上あれば一定数は投資に踏み出せる水準だと考えられるので、老後資金づくりという文脈であれば批判はそれほど的を射ないのではないかと思っています。

50代以降ではまだ「貯め時」「使い時」といった昭和的なライフプラン観が根強く残っており、若いうちから少額でも積み立てを続ける発想への転換が進んでいない層も多いです。子育て中で教育費の負担が大きい世代にとっては、負担が一段落したタイミングで使える制度として一定の意義があると感じています。

生涯拠出枠(12:29)

もう一つの案として出ているのが、過去に本来拠出できたはずなのに拠出できなかった分を枠として積み立て、将来まとめて使えるようにするという仕組みです賃金カーブに沿って若いころに使えなかった枠を後から使えるようにするという考え方で、キャッチアップ拠出に似ていますが、キャッチアップ拠出が上乗せの追加枠であるのに対し、こちらは誰もが同じ枠を持つという建て付けになるため、高所得者優遇という批判はやや和らぐと見ています。ただし制度としては複雑になるため、現状の議論ではキャッチアップ拠出のほうが優勢に進んでいるようです。

この仕組みを導入するには、個人ごとの過去の所得や資産状況を政府が把握する必要が出てくるため、把握されること自体に抵抗を感じる人も一定数いると考えられます。社会保険料への影響などを懸念する声も出てくるかもしれません。ただ、負担能力のある人からより多く負担してもらうという社会保障の考え方に照らせば、こうした仕組みは筋が通っているとも言えます。この案が導入されると、iDeCoや確定拠出年金の人気そのものが落ちるのではないかという懸念もありますが、将来使えなかった枠を使えるようになる点は前向きに評価できる部分です。

試算として、仮に20歳から60歳までの40年間、月6万2000円を拠出できたとすると、合計で約2976万円の拠出が可能になります。これにNISAの1800万円を加えると、合計で4800万円程度の資産形成余地が生まれ、今後のインフレを考えると悪くない話だと感じています。とはいえ、この枠を実際に使い切れる人はそう多くないと考えられるため、把握や管理の負担が過度に増えるという懸念はそれほど当たらないのではないかとも思っています。

政府の現在の方向性としては、確定拠出年金の受け取り方について、退職所得控除との重複を制限する10年ルールのような改正がすでに行われています。これは受け取り時の税優遇が事実上先着順的な扱いだったことへの対応で、改正前の状態が本来望ましかったとも言えます。年金のように分割で受け取る方式を政府としては基本形に据えたいと考えているようですが、そのためには受け取り時の税制優遇をもう少し手厚くしないと、利用率はむしろ下がってしまうと感じています。拠出時の制度設計だけでなく、受け取り時の税制も含めて議論する必要があると考えています。

iDeCoにおける35本要件の緩和(17:19)

iDeCoなどで提示できる運用商品の本数には上限があり、現在は35本までと定められています。それ以上増やしても選びきれないだろうという考え方が背景にありますが、NISAでは購入できる商品がおよそ350本あるため、iDeCoの選択肢の少なさがニーズに応えきれていないという指摘も出ています。政府の資料でも、NISAで実際に商品供給されている300本程度のうち、全ての商品が購入されているとの統計が示されており、これを根拠に35本という上限の撤廃、あるいは緩和が提案されています

ただし本数を増やせば増やすほど、金融リテラシーや投資教育の充実を同時に進めなければならないという課題が出てきます。選択肢が増えても選べない人は一定数存在し、そうした人たちが本当に長期的な運用を続けられるのかという懸念があります。リスクの抑え方やポートフォリオ、資産配分の考え方についての教育は依然として不可欠で、こうした発信をしていても届かない層が一定数いるのが実情です。

現状、株式市場の成績が好調なため、多くの人が株式一辺倒の運用に偏ってしまう可能性もあり、老後資金が大きく目減りするリスクへの備えが十分にできているかという点は懸念材料です。政府として教育を怠り、国民の多くが株式のみで運用して大きな損失を被った場合、批判が集中することも考えられます。商品数の上限撤廃が難しいのであれば、除外の手続きを緩和する案も同時に出されています。

商品除外手続きの簡素化(19:46)

現行制度では、運用商品を除外する際に加入者の3分の2以上の同意を得る必要があります。オプトアウト方式のため反対しなければ通る仕組みではあるものの、3分の2以上という要件はハードルとして小さくありません。そこで、除外対象となる商品について新規の買い付けは停止しつつ、既存の保有者はそのまま継続保有を認めるという案や、信託報酬が安く運用効率の良い新しいファンドに切り替える場合には、加入者への説明を前提に個別同意を不要とする案が出ています

入れ替えを行う際には1年程度の周知期間を設けるといった制限を課す代わりに、商品の入れ替えをしやすくするという方向性です。この提案についてはそのまま通ってもよいのではないかと感じています。一方で35本という上限自体を撤廃する場合には、NISAと同様に幅広い商品が対象になり、選びきれない人が増える懸念があります。

選びきれない結果、S&P500やオルカンといった特定の商品を一律に勧めるような、やや乱暴で無責任なアドバイスに流れてしまう人が出てくることや、逆に判断を放棄して全額を預金にしてしまう人が増えることも考えられます。学ぶかどうかは自己責任であり、投資するかどうかも自己責任ですが、老後資金を十分に蓄えられるかどうかも本人の責任という点は変わりません。

iDeCoや企業型DCを賢く活用している人たちの中には、老後資金が足りない人への支援のために自分たちの税負担が重くなることに抵抗を感じる人も一定数存在します。日本は平等主義的な意識が強く、資産格差が広がることへの国民感情的な反発も起きやすい土壌があります。アメリカでは高所得者や資産家に対するリスペクトの文化があるためまだ受け入れられやすい面がありますが、日本では格差が可視化されると批判の的になりやすく、こうした心理的な壁が制度の広がりを鈍らせる要因になっていると感じています。

DCの拠出可能額を一部引き上げた上で統一する(23:06)

最後の提言は、確定拠出年金の拠出可能額を、加入区分ごとに一部引き上げたうえで統一しようというものです。現在、自営業やフリーランスにあたる第1号・第4号加入者は月7万5000円、厚生年金に加入する会社員は月6万2000円、60歳から70歳も同様に6万2000円ですが、第3号被保険者にあたる扶養配偶者には上限が定められていません。この統一案が実現すると、第3号の枠も他区分と揃える必要が出てくるため、厚生労働省としてはこの部分にはあまり積極的に踏み込まないのではないかと見ています。

背景には、第3号被保険者の制度そのものを段階的に縮小したいという政府の意図があると考えられます。ただ、正面から第3号廃止を打ち出すことは歴史的経緯もあって難しく、緩やかに他の方向へ誘導していく形になっているように見えます。扶養制度があることで社会保険財政の赤字が続いているという指摘もあり、特に配偶者の年収130万円という壁については、就業意欲や労働力確保の観点から見直しの余地があると感じています。未成年の子どもの扶養については引き続き配慮が必要ですが、現役世代の配偶者については扶養の枠組みをなくしていく方向にあるため、この統一案がそのまま通る可能性は低いと見ています。

高齢者の扶養にあたる180万円の基準については維持される可能性がありますが、現役世代の配偶者に関する扶養区分をなくす方向性がある以上、第3号を含めた完全な統一は実現しにくく、第1号・第2号・第4号を7万5000円に揃えるだけにとどまる可能性が高いと考えています。

アメリカの制度は給与所得に対する一定の割合で拠出限度額を定めており、金額ではなくパーセンテージで考える設計になっています。消費理論の研究でも、手取り収入の何パーセントを老後資金に、何パーセントを現役世代の支出に充てるかという発想が一般的で、アメリカの金融教育の発信者もパーセンテージで語ることが多く、日本もこうした考え方に早く移行していくべきだと感じています。

まとめ(25:46)

ここまで4つの提言について解説してきましたが、キャッチアップ拠出、もしくはそれに類する生涯拠出枠のような仕組みは、一定の確率で導入されるのではないかと見ています。全体の拠出枠そのものを底上げするというよりも、年齢が一定に達した段階で追加の拠出ができるようにし、老後資金づくりの自助努力を後押しする方向で議論が進んでいるように感じます。確定拠出年金という制度の方向性自体は、今後も大きくは変わらないだろうと考えています。

制度を利用するかどうかは本人の自由ですが、現状は加入している年数そのものが重要な意味を持つため、若いうちに「まだいいや」と後回しにしてしまうと、その分の恩恵を取り戻すのは容易ではありません。将来、受け取り時に制度が不利な方向に変更されるのではないかという不安を持つ人がいるのも理解できますが、それでも現状のiDeCoはNISAより有利な面が多く、慎重な見方をしている人であっても、一度制度を冷静に理解したうえで自分の状況に当てはめて検討する価値はあると考えています。

拠出できる金額がそれほど多くないという理由で利用を見送ったとしても、老後資金が不足すればその結果を引き受けるのは自分自身です。老後も現役時代も豊かで幸せな生活を送るためのバランスを整えるという意味では、資産運用の知識や投資の技術は欠かせないものだと感じています。政府が用意している制度をうまく活用することで、多くの人の人生がより良い方向に向かうのではないかと考えています。

またこちらの動画「【3.6万人調査】老後資金、NISAだけでは足りません。今すぐiDeCoを優先すべき理由」では、最新データを基に、老後資金で確定拠出年金を優先すべき理由や2026年改正のポイントを解説していますのでぜひご覧ください。

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