【コメント返し】シミュレーションに実質利回りを使う危険性 

以前公開した「オルカンより勝率の高い投資を1万回シミュレーションで検証」という動画に、多くのコメントや疑問の声が寄せられました。通常であれば一つひとつの質問にすべて答えることは難しいのですが、投資を文化として広めたいという思いや、誤った知識や行き過ぎた考え方によって投資を継続できなくなる人を出したくないという願いから、今回はアンサー動画として寄せられた声に丁寧に向き合っていきます。

今回の内容は投資を学ぶうえで多くの人の参考になると考えられるため、最後まで目を通していただければ幸いです。

称賛の声をいただきました(1:39)

届いたコメントの中には、動画のわかりやすさを評価する声や、オルカンがリスクの高い商品に見えるという指摘を高く評価する声が多く見られました。シミュレーションの期間は30年に設定し、結果を2つに絞ってわかりやすく提示したことで、リスクを抑える理由が伝わったという反応も多かったようです。

一方で疑問や指摘も寄せられており、中には根本的な誤解に基づくものから鋭い指摘まで幅広く含まれていました。今回はその声に一つひとつ丁寧に応えていく形で構成しています

ACWIオルカンのリターンの算出に関する疑問(3:20)

最も多く寄せられたのが、ACWI(オルカン)のリターンの算出方法に関する疑問でした。動画内ではオルカンのリターンを8.26%、独自のポートフォリオを7.05%として提示しましたが、この数字がどこから来ているのかという質問が相次ぎました。

結論から言うと、これらの数値は独自に算出したものであり、市場に公表されている実質リターンをそのまま用いたわけではありません。ただし7.05%という数字については、期待リターンとして7%を設定した結果、実質的な運用結果が7.05%になったという経緯があり、期待リターンとして表示すべきところを実質リターンのような数字で示してしまったことは、誤解を招く表現だったと思います

なぜ実質リターンではダメなのか(5:35)

このリターンの計算方法を説明する前に、そもそもなぜ実質リターンをそのまま使ってはいけないのかを整理しておきます。投資信託のリターン表示などでよく使われる幾何平均利回りだけを絶対視する考え方には、大きな注意が必要です。

コメントの中には、同期間のACWIの円建てリターンは11%程度あるはずだという指摘や、配当なしの指数(プライス)で計算すると8.3%程度になるという分析もありました。実際にMSCIのデータをもとに為替も加味して円建てで計算し直してみると、いずれの数値も動画内の数字とは一致しませんでしたが、プライスベースの計算値がもっとも近かったため、コメントの多くはプライスを使って算出したのではないかという推測に基づくものだったと考えられます

ただしプライスは配当を除いた指数であり、実際にオルカンが採用しているネット(配当込み・税引後)の指数とは性質が異なるため、比較の基準として適切ではありません。また、2003年1月を起点として計算している理由についても、この時期はITバブル崩壊後の底値圏にあたるため、この期間だけを切り取って実質リターンを計算すると実態以上に良い数字が出てしまうという問題がありますが、サービス開始が2003年1月であるため、この期間で計算せざるを得ないという事情もあります。

オルカンのリターンについて(10:34)

ここでACWIの指数について整理しておきます。MSCI社が提供するACWIには大きく分けてプライス、ネット、グロスという3種類の算出方法があります。プライスは配当を除いた指数、ネットは配当を再投資したうえで源泉徴収税を差し引いた税引後の数値、グロスは源泉徴収税を差し引かない再投資後の数値です。投資信託の運用結果を扱う場合は、実際にファンド内で源泉徴収税が引かれた状態で配当が再投資される仕組みに合わせて、ネットで計算するのが妥当だと考えています。

また、幾何平均利回りと算術平均利回りのどちらを使うかによっても数値は変わってきます。動画で使ったプライスベースの数値を実際に幾何平均で計算し直すと8.18%程度になり、視聴者から寄せられた推測に近い数字が出てきました。ただし算術平均で計算すると数値はさらに高くなりますが、これは単に増減を平均しているだけであり、複利効果を反映していないため適切な比較にはなりません

幾何平均利回りは開始価格と終了価格、そして期間という3つの変数だけで決まる、いわば点と点を結んだ計算方法であり、切り取る期間によって数値が大きく変動してしまうという弱点があります。実際にリーマンショック直前の高値を起点に10年間で計算すると幾何平均利回りはマイナスになってしまいますが、だからといってその期間に投資すべきでなかったということにはなりません。むしろ市場が下落しているときこそ本来は買うべき局面であり、逆に大きく伸びているときは行き過ぎている可能性を疑うべきだと考えられます。

幾何平均利回りはあくまである期間に投資していたらいくら儲かったかを示す指標であり、将来の投資判断の材料としてそのまま使うことには向いていません。ネットベースで動画中の期間を計算し直すと10.29%という数値になりますが、この期間はリスクが高く行き過ぎている可能性があるため、期待リターンとしては8.26%まで割り引いて評価しています。

実際、現時点での全世界投資の運用実績は8%を超えていますが、それでも期待リターンとしては7%という数字を使い続けており、大きな数字を強調してミスリードを招くことを避ける姿勢を貫いています。

期待リターンとは(22:53)

続いて期待リターンとは何かについて説明します。期待リターンは本来「予測リターン」と訳すべき言葉であり、未来がどうなるかを完全に言い当てるものではありません。

2003年1月にサービスを開始した際、期待リターンとして7%を設定し、以来20年以上にわたって運用を続けてきた結果、実績としてもおおむね7%前後で推移しています。期待リターンとリスクを設定したうえで、実際の結果がその想定範囲に収まっているかどうかを検定し、想定の範囲内に収まっていることを確認しながら毎月運用を続けています

期待リターンやリスクの具体的な算出方法については企業として明かせない部分ではありますが、複数の手法を組み合わせて算出しているとだけお伝えしておきます。これが学術的に正しいかどうかを議論することにあまり意味はなく、20年以上にわたって想定通りの結果を出し続けているという実績こそが重要だと考えています。

リスクを抑えるという考え方の根底には、大きな損失を避けながら投資を継続できる状態を保つという狙いがあります。時価総額加重平均が絶対だという考え方をそのまま受け入れてしまうと、値上がりしている資産にどんどん資金を投じるという行動につながりかねず、それがバブルの形成とその崩壊を繰り返してきた人類の歴史そのものでもあります。投資で大きく負けないことがもっとも基本的なルールであり、リスクを抑えるという方針はその考え方に基づいています。

グラフのスケール(縦軸・横軸)について(32:44)

前回の動画で示した分布図について、縦軸と横軸のスケールが異なるため単純比較ができないという指摘もいただきました。当初は見やすさを優先してスケールを調整していましたが、比較のしやすさを重視して、今回は同じスケールに揃えたグラフを新たに用意しました。

中央値はほぼ重なっており、独自のポートフォリオの再頻値は左寄りに、平均値はやや右寄りに位置する一方、オルカンを想定したグラフは結果のばらつきが大きく出ています。ただ、あえてどちらが優れているかという結論を強調しないようにしていた点については、恣意的に映ってしまった可能性があり、そこは反省すべき点だと感じています

シミュレーションの限界について(35:51)

モンテカルロシミュレーションの前提や限界に触れるべきではないかという指摘もいただきました。モンテカルロ法はランダムウォークを前提とした計算方法であり、将来を的中させるためのものではありません。あくまである前提条件のもとで、結果がどの程度ばらつくのか、最悪のケースでどこまで悪化し得るのかを把握するための手法です。

前提となる期待リターンやリスク、相関係数の設定が不適切であれば結果も役に立たなくなりますが、それはモンテカルロ法そのものが無意味だということではなく、前提条件の設計に問題があるというだけの話です

目指しているのはうまくいく方法を示すことではなく、最悪のケースでも生き延びられる方法を考えることであり、リーマンショックのような出来事があったからといって投資をやめるという判断もあり得ますが、火を使えば人を傷つける可能性があるからといって火そのものを使わない選択をするのではなく、リスクを理解したうえでうまく制御しながら恩恵を受け取るという考え方に近いものです。

コストや手間について(40:26)

コストや手間についても多くの意見が寄せられました。オルカンと現金の組み合わせだけで十分ではないかという声や、AIの時代に手動でリバランスをする必要があるのかという疑問もありました

リスクを軽減できる方法であれば特に問題はないと考えていますが、オルカン一本だけで運用するのはさすがに厳しく、ある程度の現金比率を保ち、それに応じたリバランスを行うことが重要です。上昇局面でオルカンを売ってでも現金比率を維持できているかどうかは、実際に問われるべきポイントです

自動でリバランスできる仕組みがあれば理想的ですが、現状の金融機関のサービスではそうした機能はほとんど提供されていません。信託手数料についても、資産額によって差はあるものの、オルカンと同程度かそれ以下の水準に収まるよう設計されています。提供しているのは資産配分の方法論そのものを学ぶ場であり、単なる商品の紹介にとどまらないという点も強調しておきたいところです。

積立投資だった場合について(45:25)

1000万円を一括投資する場合と、30年間かけてドルコスト平均法で積み立てる場合を比較すべきだという意見もありましたが、この比較自体があまり意味を持ちません。すでに手元にある1000万円を30年間も投資せずに眠らせておくこと自体が合理的ではなく、積立投資は毎月できる範囲で全力投資を続けているだけの話です。

一括投資ができない資金に対して積立投資を行っても、うまく機能するとは限りません。適切な期間をかけた時間分散投資という観点からも、長期・積立・分散という三つの原則をきちんと満たした形での運用を勧めています。

元本割れの確率について(46:48)

30年間運用しても一定の確率で元本割れが残るという結論に対して、15年以上保有すれば元本割れしないとされる有名な図と矛盾するのではないかという質問もいただきました。実はその図についてはすでに金融業界からもミスリードであるという指摘が出ており、鵜呑みにするべきではありません。モンテカルロ法自体は将来が読めない以上、確率がゼロにはならないという当たり前の前提に基づいているだけです。

一方で、過去のデータをもとにすると15年間保有していれば元本割れがなかったというのも事実であり、独自のポートフォリオの場合は7年程度まで期間が短縮されるという結果も出ています。リスクを抑えれば元本割れを回避できる期間が短くなるという関係性を的確に読み取ったコメントもあり、非常に理解の深い視聴者がいることを実感しました

賛同できなかったコメント(52:11)

最後にどうしても納得できなかったコメントについても触れておきます。再頻値について「多くの投資家が体験する値」と説明した部分に、他の可能性も併記すべきだという指摘がありましたが、再頻値の定義そのものがすでにその意味を含んでいるため、あえて追記する必要はないと考えています。

また、独自のポートフォリオもアクティブファンドではないかという指摘については、明確に否定しておきます。運用者の裁量で銘柄や資産配分を変更してベンチマークを上回る成績を目指すものがアクティブファンドと呼ばれるのに対し、こちらは特定のベンチマークを設定せず、世界経済の成長に幅広く乗ることを目的に一定のルールに基づいて資産配分を行っているため、性質がまったく異なります

さらに、リスクの低い運用を正当化しているように見えて残念だというコメントについても、正当化して当然だと考えています。リターンが同じであればリスクは低いほうが望ましく、複数の資産を組み合わせることで値動きの波を打ち消し合い、リスクを軽減できるというのが資産配分運用の基本的な考え方です。組み合わせによって期待リターンは加重平均分だけ下がりますが、それ以上に下がることはなく、リスクは加重平均以上に軽減される点にこそ意味があります。

まとめ(58:31)

今回は反響の大きかった前回の動画に寄せられた疑問や指摘に、できる限り丁寧に向き合ってみました。すべてのコメントに毎回対応することは難しいものの、今回の内容が多くの人にとって学びにつながれば幸いです。

またこちらの動画「オルカンより勝率の高い投資を1万回シミュレーションで検証」では、モンテカルロ・シミュレーションで勝率を見える化し投資の考え方を解説していますのでぜひご覧ください。

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