過去の利回りでは将来の利回りは見えてこない。誰も言わない利回りの真実
投資を考える際、多くの人が過去の利回りに注目します。しかし、過去の利回りと将来の利回りは同じものではありません。将来の利回りを考える際は、過去の数値だけでなく、別の要素も一緒に見る必要があります。リターンだけを見ていても、投資の全体像は見えてこないのです。
今回は、投資で見落とされがちな重要な真実について解説していきます。
まずはチャートを見てみよう(1:04)

MSCI社が提供する各種指標と全世界投資のパフォーマンスを円建てで比較してみましょう。
黄色で示されているのはS&P500(USA)で、最も上昇しています。緑色はワールド(先進国)、赤色はオルカン(ACWI)のインデックスです。オレンジ色はエマージング(新興国)、青色が全世界投資となります。
このチャートを見ると、全世界投資は5つの指標の中でワーストのパフォーマンスとなっており、アメリカ最強という印象を受けます。こうした結果を見ると、S&P500やナスダックといったアメリカ株に投資したいと思う気持ちも理解できます。
数値化してリスクとリターンに分ける(2:34)

実際の値動きを数値に落とし込み、リスクとリターンに分けて分析してみましょう。2003年1月から2025年6月までの期間で、各指標のリスクとリターンを算出しました。
ACWIは年率17.85%のリターンで8.26%、USAは10.19%と2桁のリターンを記録しています。この中では全世界投資が7.05%でワーストとなります。
ただし、大きく異なるのはリスクの部分です。全世界投資のリスクは11.13%と、他の指標と比較して低く抑えられています。これは資産分散の効果によるものです。全世界に満遍なく投資することで、アセットアロケーション運用による分散投資効果を得ることができ、リスクを抑制できるのです。
興味深いことに、1988年からの長期間で見ると、それぞれのリターンは下がってきます。特にエマージングやワールドは極端に下がり、アメリカに関してもリターンが下がってリスクが上がるという動きになっています。これは、最近の直近期間が特に強かったということを示しています。
将来の利回りは目減りして見ていく必要がある(5:30)
過去に投資していた人はそれだけのリターンを得られたかもしれませんが、これから投資する人にとっては全く関係のない話です。また、過去に投資していた人でも、その後の値動きについては別の話となります。
実際の値動きをそのまま使って将来を予測するのは適切ではありません。将来の利回りは今後様々な動きをするため、ある程度目減りしていくと見ていく必要があります。この目減りに関係してくるのがリスクです。
リスクが高くなると、将来のリターンは現実に出ていたリターンよりも下がってしまいます。これが投資の不都合な真実です。価格変動商品を扱う際には、どうしてもこの現象が起きてしまいます。
±10%を繰り返すと値段が下がる(6:18)

リスクがリターンを蝕む現象は、低減効果や複利のマイナス効果、海外ではボラティリティポイズンやボラティリティドラッグと呼ばれます。
簡単に説明すると、プラスマイナスを同じパーセンテージで繰り返すと値段が下がってしまうという現象です。例えば、100に投資して上下10%で変動した場合、-10%の後に+10%しても100には戻らず99になってしまいます。
これを何年も繰り返していくと、マイナスに下がってしまう効果が生まれます。

グラフで表すと、期待利回り7%の緑色の曲線に対して、プラスマイナス10%(青)、20%(黄色)、33%(オレンジ)と変動幅が大きくなるほど、下に下がる圧力が強くなることが分かります。
リスクとリターンは、この上下動を分割して表示したものです。下がっていく力(リスク)と上に押し上げる力(リターン)の両方を見る必要があり、どちらか一方だけ見ていても投資の全体像は見えません。
リスクとリターンの中央値(9:07)

この下がってしまう効果を表現するのに参考となるのが中央値です。ジグザグと変動する線の真ん中に線を引いたイメージで、リスクとリターンが分かれば中央値も計算できます。
2003年1月から2025年6月の期間で中央値を算出すると、リスクとリターンの数値は変わりませんが、中央値では異なる数字が出てきます。中央値とは、確率が50%で発生するその利回りのことです。
全世界投資の中央値は5.81%となり、ACWIとほぼ変わらなくなります。エマージングに関しては全世界投資よりも下回る結果となります。
USAは10%あったリターンが、中央値では7.71%まで下がってしまいます。1988年からの長期で見ると7.86%という数値になり、期間を長くしたり、過去のリターンを多少割り引いて見ると、また景色が変わってくることが分かります。
ミックスしてリスクを下げる(14:03)

アメリカに投資して資産が増えていくことは期待できますが、それだけではリスクが高くなってしまいます。そこで、ミックスすることによってリスクを下げることを考えます。
11個のアセットの値動きを見ると、それぞれバラバラな動きをしています。似たような動きをすることもあれば全く関係ない動きをしたり、下がっているものもあれば大きく上がっているものもあります。
しかし、過去の動きから将来を予測しようとしても意味がありません。将来のことは誰にも分からないのです。
投資家の仕事は何かと考えると、予想を当てることではありません。現実的に当たらないからです。そうであれば、できるだけ下がらないようにすることが重要です。大勝ちしたいわけではなく、大負けしないことが肝心です。
失敗しない投資で世界に投資をしていれば、経済成長とともに資産が増えていきます。株式は大きく値動きするため、それを一定程度下げるために様々なものに分散投資をすることで、株式の上昇を受けつつもその変動を抑えることができ、株式が低迷している時には支えてくれる効果があります。
将来のことはわからない(18:07)
過去のリターンは確かに存在し、実際に儲かった人もいたでしょう。しかし、将来のことは分からないのが現実です。アメリカがまた20年間10%成長を続けるかは、誰も保証できません。
例えば、2000年から2010年の間、アメリカの成長率はほぼゼロでした。下がっては上がって、下がっては上がっての繰り返しだったのです。もし10年間という限られた投資期間しかない50代の方が、過去10%だったアメリカ株式に投資して、実際にはほとんどゼロのリターンだった場合、老後資金は大丈夫でしょうか。
一方、全世界投資であれば、その期間はそれほど成績が振るわなかった時期もありましたが、それでもしっかりと右肩上がりに成長していきます。10年程度の投資期間があれば大体7%に近づいていき、中央値が6%程度だとすると、インフレを差し引いた実質利回りとしては5%程度で考えれば大丈夫ではないでしょうか。
回復に要する時間が短くなる(19:42)
リスクを下げることには、もう一つ重要な効果があります。それは、下落してから回復に要する時間が短くなることです。
投資の目的として老後資金が大きな割合を占める中で、老後に入った時に大きく下がっていてなかなか回復しない状態になると、老後生活の計画を完全に見直さなければならなくなります。
そのための対策がリスクを抑えることです。リスクを抑えると下落率を下げることができ、回復までの時間も短くなります。

過去のリーマンショック時の下落率と回復データを見ると、先進国では-58%の下落に対してプラス138%のリターンが必要で、回復に6年間要しました。日本のREITや先進国REITはそれ以上に下がり、12年や7年という回復期間でした。
しかし、全世界投資では-38%の下落に対して必要なリターンは61%で、最終的に回復に要した時間は4年9ヶ月でした。このように、回復する期間が短くなるのです。
まとめ(21:23)
投資において必要な視点は、リターンだけを見ないことです。リターンはあくまで過去の数字であり、その時に投資していた人には良かったかもしれませんが、これから投資する人やすでに投資している人の将来については全く関係ありません。
将来どうなるかは誰にも分からないのが現実です。どこかを当て物にするのではなく、リスクを抑える仕事をすることが重要です。リスクを見て、リターンと同時にリスクを見てください。過去の値動きのリターンはあくまで参考値であり、将来のリターンを保証するものではありません。
リターンとリスクの両方を見て、その数値で計算したとしても中央値は大きく下がってしまいます。将来の値動きは分からないので、予想を当てるのではなく安定的に収益を上げることを目指します。
理想は右肩上がりでスムーズに上がっていく指数曲線です。複利回り7%の曲線のような、そういった曲線で資産が増えていってほしいのです。そのためには、リスクを極限まで下げてリターンをできるだけ下げないような工夫が必要です。
またこちらの動画「《投資の不都合な真実》リスク管理で成功するための3つのポイント」では、投資をするうえで避けては通れない不都合な真実を紹介していますのでぜひご覧ください。