【円安163円】オルカン・S&P500の利益「3割が円安効果」
7月21日のニューヨーク市場で、ドル円が1986年以来となる163円台に突入したというニュースが飛び込んできました。円安がじわじわと進行している状況ですが、その分だけ外国資産の評価額は大きく膨らんでいます。喜んでいいのか複雑な気持ちにもなりますが、オルカンやS&P500を保有している人はもちろん、為替ヘッジなしで外国債券を組み入れている人にとっても、この円安は積み増し効果として働いています。
そこで気になるのが、今出ている利益のうちどれくらいが円安によるものなのかという点です。今回はこのテーマを掘り下げ、為替の影響を具体的な数字で確認しながら、投資家としてどう向き合うべきかを解説していきます。
10年前からの騰落率(1:24)

出典:TradingView
まず、10年前からの騰落率をグラフで確認します。TradingViewのデータをもとに、主要インデックスに連動するETFの値動きを、配当込み・円換算で追ったものです。緑色のVOOはバンガードのS&P500ETF、オレンジ色はオールカントリー・ワールド・インデックスに連動するiShares MSCI ACWI ETF、水色は日本の日経平均に連動する1321、そして紫色は金となっています。それぞれ伸び方は異なりますが、金だけは10年前の時点でいったん下落していたため、そこからの反発分だけ大きく見える点には注意が必要です。とはいえ、いずれの資産も右肩上がりで、かなりの上昇と言ってよい結果になっています。

次に、為替の影響を取り除くために日経平均は円建て、それ以外はドル建てで表示し直してみます。円建てでなければ意味がないと感じる人もいるかもしれませんが、これは市場そのものの強さを見るための工夫です。世界中の投資家が円建てやドル建てなど様々な通貨で取引している以上、その市場自体の実力を比較するには、現地通貨での騰落率を見るのが適しています。
こうして見ると、日経平均の強さが際立ち、ACWIを上回る場面もありました。特に2025年に入ってからの急激な伸びが大きく、それに比べるとACWIやS&P500の伸びはそれほど際立っていません。ここまでで市場ごとの強さを確認したところで、次はそれぞれの利益をどう分解できるかを見ていきます。
円ベース騰落率に対する為替の影響(4:46)
続いて、円ベースの騰落率に対して為替がどれだけ影響しているかです。為替を抜いた騰落率で見ると、日経平均は円建てで300%、VOOは483%という大きな伸びになっており、10年間の数字とはいえ単純に年換算してもかなりの伸び率です。ここに為替による上乗せ分を加えると、円ベースの騰落率と為替抜きの騰落率の差から、為替がどれだけ資産額を押し上げたかを算出できます。
さらに、その押し上げ分が円ベースの騰落率全体のうち何パーセントを占めているかという「寄与率」も計算しています。VOOの場合、為替による上乗せは150.44ポイントで、これは483.1%という上昇のうち31.14%を占める計算になります。同じ考え方でS&P500も31.14%、オールカントリー(ACWI)は金を1割ほど含んでいる分わずかに高く41.56%、そして日本円はもちろん0%です。
つまりオルカンを保有している人にとって、今出ている利益の実に3分の1ほどは為替によるものだったということになります。これは想像していたよりも大きな割合と言えるでしょう。
投資家としての先回りした考え方(8:50)
では、日経平均が伸びているのは単に円の価値が下がっているからで、意味がないのではないかという疑問も出てきます。たしかにその側面はありますが、日本は生活のあらゆる場面で海外に依存している国です。原料はほとんど国内で採れず、エネルギーも輸入に頼り、食料自給率も高いとは言えません。小さな島国である以上、海外との関わりを避けることはできず、円安になれば輸入コストの上昇を通じて国内の物価も上がっていきます。海外旅行に行った際に物価が高く感じるのも、この円安の影響です。
だからこそ投資家としては、将来使うお金がどうなるかを先回りして考えておく必要があります。将来使うお金を円だけで持っていると、海外の物価が上がった分だけ実質的に目減りしてしまうリスクがあります。これを避けるには、将来購入するものの海外依存度に応じて、外貨建て資産を組み合わせておくという発想が有効です。
分かりやすい例としてiPhoneを挙げてみます。仮に20万円のiPhoneのうち、日本国内での製造・販売コストが10万円、アメリカでの製造コストが10万円(1ドル100円換算で1000ドル)だったとします。ここで円安が進み1ドル150円になると、日本側の10万円は変わらない一方、アメリカ側の1000ドル分は15万円に膨らみ、合計25万円になってしまいます。これがまさに、今iPhoneの値段が上がっている理由です。もし円だけで資産を持っていた場合、この5万円の差額を追加で用意しなければ購入できません。
しかし、あらかじめ日本円建てと米ドル建ての資産を半分ずつ持っていれば、円安になっても円高になっても、必要な金額をきちんと用意できることになります。これはiPhoneに限った話ではなく、食料品やエネルギー、サービスなど、生活の中でどれだけ海外に依存しているかを積み上げて考えることで、自分にとって適切な外貨建て資産の割合が見えてくるという考え方です。
日本人は為替リスクをとる必要がある(12:21)
こうした通貨の分散は、アセットアロケーションにおける地域分散の基本的な考え方のひとつです。将来使うためのお金である以上、円のまま置いておくのではなく、日本株式や日本債券をどのくらいの割合で持つか、そして海外株式であるオルカンに対応する形で為替ヘッジなしの海外債券をどのくらい組み入れるかを考える必要があります。そこに金やREITなどを少量加えることで、より安定したポートフォリオになります。
日本は海外依存というリスクを構造的に抱えており、今後為替がどちらに動くかは誰にも分かりません。今は円安が進んでいますが、将来円高に転じる可能性もあります。だからこそ、どちらに転んでも対応できるように、地域と通貨をあらかじめ分散しておくという考え方が重要になります。
円高になれば資産の円建て評価額は下がりますが、その分だけ物の値段も下がりやすくなるため、購買力そのものは維持されやすくなります。資産運用は増やすことだけが目的ではなく、将来使うための購買力を維持・向上させることが本質的な目的だと言えます。
実際、円安・円高の歴史を振り返ると、かつては1ドル170円台という強烈な円高の時期もあり、当時は日本経済が立ち行かなくなるという懸念すらありました。その後、民主党政権や東日本大震災を経て、アベノミクスなどを経由し、現在は恒常的に円安圧力がかかる状況に転じています。
エネルギーの輸入依存に加え、海外生産にシフトした企業の利益が国内に還流しにくくなったこと、日本人自身が海外投資をしても利益が国内に戻ってこないケースが増えたこと、そしてApple、Google、Meta、Amazonといった海外企業へ支払いが流出する、いわゆるデジタル赤字の拡大なども、円安圧力の背景にあります。
こうした構造を踏まえると、日本で生活する以上為替リスクは適度に取らざるを得ないというのが基本的な考え方になります。ただし、オルカン100%のように資産全体を為替リスクに全面的にさらす状態は望ましくありません。日常生活は基本的に円で行われているため、一定割合は円建て資産で持っておく、いわゆるホームバイアスの考え方も必要です。外食が多く海外依存度の高い生活をしている人と、国産品中心で暮らす人とでは適切な割合も変わってきますが、それぞれの生活スタイルに応じておおよその配分は見えてくるはずです。
なお、株式については為替ヘッジをつけても株式自体の値動きの大きさに埋もれてしまい、ほとんど誤差の範囲にとどまります。一方で債券は金利の影響を強く受けるため、ヘッジありのほうが望ましいという意見もあります。ただし為替ヘッジにはヘッジコストがかかり、現在のように各国の金利水準が高い状況では、長期運用においてはあまり向いていないとも考えられます。こうした点を踏まえると、長期の資産形成という観点では、基本的に為替ヘッジなしのファンドを選んでおけば十分と言えそうです。
まとめ(19:16)
ここまでの内容を踏まえると、生活の半分以上は何らかの形で海外の影響を受けているというのが大まかな実感であり、資産の半分程度を海外に投資しておくというのは、決して的外れな判断ではありません。もちろんこれは米ドル建てで直接投資する必要はなく、オルカンのインデックスファンドや、今回紹介したようなETFを通じて、円建てのまま海外資産に投資することも可能です。こうした資産を保有しておくことで、物価上昇から資産を守りながら、実際に使う場面でも購買力を維持しやすくなります。
株式と債券を組み合わせたアセットアロケーションの考え方は、慣れないうちは複雑に感じられるかもしれません。自分で計算しきれないからこそ投資に踏み出せないという人もいますが、そうした場合にシンプルにオルカン一本を選ぶという判断も、自己責任のもとでは十分にありうる選択です。今回の内容は、あくまでこうした考え方もあるという提案として受け止めてもらえれば幸いです。
またこちらの動画「【チャンスを逃すな】円安160円台でも投資は止めるな。円高を待つほど損する理由」では、円安でも投資を止めるべきではない理由を解説していますのでぜひご覧ください。





