老後資金を破綻させない年金の繰り上げ・繰り下げ受給のコツ
「年金の繰り上げ・繰り下げ受給」をテーマに、老後の生活設計において年金の受給タイミングについて解説をします。
この記事を通じて、年金受給を選択する際の重要なポイントやリスクを抑えることができます。安定した老後を迎えるためにファイナンシャルプランニングの視点で考えていきましょう。
キーポイント
年金の繰り上げ・繰り下げ受給はどう考えるべきか?(00:00:00)
年金の受給開始を「繰り上げる」「繰り下げる」という選択肢には金額の増減という損得要素が付きまといます。
ただ、老後の生活設計においては「老後の家計が破綻しないこと」が最も重要です。
年金の受給タイミングを選ぶことの本質的な目的は、老後を長く生活するために必要な資金を確保し、安定した生活を送れるかどうかを考えることです。
日本の老後資金の不安は主に2つあります。
- 家計が保てるか
- 家計が破綻しないか
多くの方が年金受給のタイミングを損得で考えがちですが、老後生活は「ファイナンシャルプラン」が必要不可欠です。つまり、自分の人生設計に基づき、破綻しない家計を作ることが最優先されるべきなのです。
そうした視点に立てば、繰り上げ支給か繰り下げ支給かのメリットとデメリットを理解し自分にとってベストな選択を行うことができます。
「繰り上げ支給」のメリットとデメリット(00:05:26)
通常、年金の受給年齢は65歳です。繰り上げ受給を選択した場合、65歳よりも早く年金を受け取れるのがメリットです。
繰り上げ支給のデメリットは、受給額が減るため必要な生活費をカバーしきれなくなるリスクです。
日本の制度では60歳から繰り上げ受給する場合、1ヶ月につき受給額が0.4%減少します。60ヶ月分(5年間)繰り上げた場合は「24%」の減額になるということです。
たとえば、平均的な年金額である約20万5,000円をもとに計算してみましょう。現在、政府発表の所得代替率は約62%です。ただ、今後政府は所得代替率50%まで下がると予想しています。
つまり、私たちが65歳時点で受け取る年金額の平均は16万5,322円です。繰り上げ受給で60歳から受けるなら受給額はさらに減少して12万5,645円となります。(出典:総務省統計局 家計調査報告)
125,645円=165,322円ー(165,322円×24%)
さらに将来的には年金の受給額が下がると言われています。マネーセンスカレッジが考えるワーストケース(所得代替率37%)で考えると、65歳で受給する場合で12万2,338円、繰り上げ支給で60歳受け取りなら9万2,977円となります。
65歳以上の夫婦世帯の平均的な消費支出が約23万円です。60歳の繰り上げ支給により年金収入がワーストケースの9万2,977円で考えた場合、毎月約13万7,000円不足します。
この差額を補うために必要な老後資金は約3,300万円です。この資金を捻出するための投資は大きな運用リスクを抱えます。
「繰り下げ支給」のメリットとデメリット(00:19:24)
繰り下げ支給は、受給額が大幅に増加するため長期的に安定した収入が期待できるメリットがあります。
繰り下げ支給を選択した場合、受給額が1ヶ月あたり0.7%の増加します。ただし、この金額は受給額ですので、手取り金額で考えると毎月0.6%程度増えると考えたほうが現実的です。75歳時点まで繰り下げた場合、受給額が72%増えます。
政府試算(所得代替率50%)と同様に、65歳時点で受け取る金額が16万5,322円で考えると、75歳時点の受給額は「毎月28万4,353円」です。月23万円の支出には十分な金額となり老後資金が安定する可能性が高まるでしょう。
ただし、ワーストケース(所得代替率37%)で考えると75歳まで繰り下げた場合、受給額は毎月21万421円になります。平均的な生活費として不足しているので、75歳までに最低600万円(毎月の不足分2万円×12ヶ月×25年)必要です。
繰り上げ・繰り下げのシミュレーションから見えてくる老後生活の課題(00:25:37)
繰り上げ受給も繰り下げ受給もそれぞれにリスクが伴う選択です。まず繰り上げ受給の場合は収入が低くなるため必要な資金を資産運用で補うことが求められますが、運用成績次第では家計が破綻するリスクが高まります。
一方で繰り下げ受給では増加した受給額により安定した収入を得られる可能性が高まりますが、生活費を補うための資産運用リスクがあり、特に75歳以降の運用には慎重な判断が必要です。
年金受給の最適な選択とファイナンシャルプランニング(00:32:04)
年金の受給開始タイミングを選ぶ際には、損得ではなく「ファイナンシャルプラン」に基づいて判断することが大切です。まず老後の家計が破綻しないことが最も重要な目標です。ファイナンシャルプランニングでは、年金の受給方法を組み合わせ家計が安定する選択をとるべきです。
たとえば65歳から75歳までの間に蓄えた資金を取り崩し、75歳以降は年金受給額で生活を支える方法も考えられます。この場合、運用リスクを抑えながら計画的に取り崩していくことが可能です。
また75歳以降は資産を現金化しリスクの少ない取り崩し生活へ移行することで、長期的な家計の安定を図ることができます。
まとめ
年金の受給開始を繰り上げるか、繰り下げるかの選択は損得だけで判断すべきではありません。老後の家計が破綻しないようにすることが最も重要な目標です。
年金の受給タイミングを考える際には、ファイナンシャルプランニングの視点をもって安定した老後生活を送るために最適な選択を行うことが大切です。自身の家計を見つめ直し、安心して暮らせる老後設計を考えてみましょう。
また、こちらの動画「《住民税非課税世帯のメリット・デメリット》法令改正後の年金211万円の壁とは?【2021年版】【きになるマネーセンス306】」では、住宅税非課税世帯向けに年金211万円の壁について解説しています。
さらに、こちらの動画「【投資の年齢上限】投資は何歳まで続けられるか?【きになるマネーセンス417】」では、何歳まで投資が続けられるのか解説していますので、老後の資産形成の参考にしてください。