新NISA非課税枠を当年中に復活。金融庁の税制改正要望を解説 

毎年恒例となっている税制改正要望の時期がやってきました。各省庁から税制改正要望が出される時期であり、自分で読み解くのは大変な内容ですが、今回は金融庁や財務省に関連する要望を中心に見ていきます。

まずは税制改正がどのようなスケジュールで進んでいくのかを確認したうえで、具体的な要望内容を解説していきます。

税制改正のスケジュール(0:36)

政府の活動には予算が必要であり、予算案が作成されて実行されるまでには一定のスケジュールがあります。まず8月末までに各省庁が税制改正要望を提出します。これが今回取り上げる要望にあたります。これを受けて9月から11月、場合によっては12月に入ってからも、与党の税制調査会が審査を行い、要望のうちどれを通しどれを通さないかを精査していきます。予算には限度があるため、報道によれば要望の規模は140兆円規模ともいわれており、これをすべて通そうとすれば国の予算をおよそ1.5倍に増やす必要があるほどで、当然かなりの部分が削減されることになります。

12月中旬から下旬にかけて、政局の状況にもよるものの税制改正大綱がまとめられ、それをもとに内閣で閣議決定が行われます。翌年1月からは通常国会が開かれ、そこで改正法案が提出されて審議が進められます。予算案であるため他の法案に先立って進められ、できれば3月末までに成立することが望ましいとされています。

予算が成立すれば4月から新年度が始まり、改正法の施行や新制度の適用が開始されます。こうしたサイクルが毎年繰り返されており、今回取り上げるのはこの一番最初の段階である各省庁の要望部分になります。要望の段階ではまだ法案化されておらず実現するかどうかも分かりませんが、政府がどの方向を向いているかが見えてくるため、内容を確認していきます。

非課税保有限度額(1800万円)の当年中の復活(3:37)

数多く出されている要望の中でもまず取り上げたいのが、非課税保有限度額の当年中の復活です。現状の制度ではある年に1800万円分の非課税枠をすべて使い切った状態で、そのうち600万円分を売却したとしても、その年の年間投資枠は復活しません。年間投資枠自体は360万円用意されていますが、非課税保有限度額の1800万円が満額の状態である限り、枠が空くのは翌年になってからです。翌年になって初めて、簿価計算で600万円分の枠が空き、その範囲内で360万円まで新たに購入できるようになります。

今回の要望は、この非課税枠の復活を売却した同じ年のうちに行えるようにしてほしいというもので、去年も出されていたものの実現せず、今年も継続して要望されていますこの仕組みを実現するには国税庁のシステムと証券会社側のデータを連携させる必要があり、証券会社側の対応は可能とみられる一方、国税庁側のシステムが古く対応できるかどうかが鍵になりそうです

ただし、当年中に枠を復活させると、その年のうちに買って売ってまた買うといった、いわゆる回転売買がしやすくなるという側面もあります。年間投資枠は360万円までという上限があり、一括購入であれば成長投資枠の240万円が上限になるため無制限というわけではありませんが、それでも少ない資金で枠の中を回転させるような使い方ができてしまいます。

金融庁としてはできるだけ長期で保有してもらい、資産形成に資するようにしてほしいという立場を取ることが多いため、この要望は一見するとその方針と矛盾しているようにも見えます。しかし、新NISAは令和6年に制度が始まったばかりで、年間投資可能額が360万円を下回る状態が実際に生じ始めるのは令和11年以降、つまりあと2年先の話です。

要望の中でも、この2年の間に投資家の利便性を高め、金融機関のシステム対応のための十分な期間を確保するには今年度のうちに改正しておく必要があると説明されています。毎回ぎりぎりのタイミングになってから対応を迫られる状況を避けるためにも、早めに方向性を示してほしいという意図がうかがえます。

このほか、資産配分に沿った運用を行っている場合、売却したあとにすぐ資産配分を整え直すリバランスが必要になる場面があります。資産配分に基づく運用は世界的に見ても標準的な考え方であり、これがスムーズに行えないというのは制度として大きな課題です。現状のNISA制度は、本来のISAの仕組みからはかなりかけ離れた設計になっており、こうした点も含めて長期投資に資するかたちへ改正を重ねていってほしいところです。

もちろん短期売買を志向する人向けの制度としてのニーズもあると考えられますが、現状はどちらの目的に対しても中途半端な制度になっており分かりづらいため、この点も含めて整備が進むことが望まれます。

iDeCoと同じスイッチングにしてほしい(9:15)

この点を裏付ける材料として、日本のNISAとイギリスのISAの制度を比較してみます。そもそも日本のNISAという名称自体がISAを参考にしたものですが、イギリスのISAは日本のiDeCoに近い仕様になっています。ISAという口座にお金を拠出すると、口座の中には現金預金があり、その中で株式の売買や投資信託の購入・保有を行うことができます。iDeCoを利用している方であればイメージしやすいと思いますが、口座の中でスイッチングを行っているような形であり、口座内にある限りは非課税という扱いになります。

一方で日本のNISAは、売却したり新たに購入したりするたびに非課税枠の外に出てしまう仕組みになっています本当に長期の投資を促したいのであれば、あらゆる資金をまとめて口座の中に入れておけるような設計にしたほうが自然です。実際、1800万円という非課税保有限度額を設ける発想自体はISAに近いものであるにもかかわらず、実際の運用は分かりにくく使いづらいものになっているのが実情です。

資産配分に基づく運用をサービスとして推奨し会員にも勧める立場からすると、この使いづらさによって投資行動が歪められてしまうことを懸念しています。本来であればすぐにリバランスを行うべき場面でも、非課税枠の都合でリバランスを見送ったり先送りしたりする行動が生じてしまうのです。そうした判断は本人の自由ですが、結果としてリスクの取り方が想定より大きくなったり小さくなったりし、期待していたリターンが得られなくなるおそれがあります。制度が投資行動そのものを歪めてしまうのは望ましくなく、抜本的な見直しが必要だと考えます。そうでなければ日本人の投資に対する意識はなかなか高まっていかないでしょう。

このまま制度が変わらなければ、2年後にはリバランスのために使える非課税枠の空き待ち期間が1年を超えてしまう場面も出てきます。そうなると、たとえば12月に売却して1月に買い直すといった限られたタイミングでしかリバランスができなくなり、相場そのものを歪めてしまう可能性もあります。良いことは何もないため、段階的にでもこうした部分の改正を進めていってほしいところです。

つみたて投資枠における要件の整備(12:02)

続いてはつみたて投資枠における要件整備についてです。つみたて投資枠で購入できる商品には規定があり、金融庁のホームページによれば、長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託に限定するとされています。投資信託にはETF(上場投資信託)も含まれ、いずれも金融庁が定めた基準を満たしたものに限られます。

具体的な要件としては、指数に連動し、かつ金融庁が指定する指数に連動しているもの、いわゆるインデックスファンドが対象となります。ETFについてはこれに加えて流動性確保の観点から要件が課されており、海外の取引所に上場しているETFであっても純資産総額1兆円以上であることや流通性が十分に確保されていることなどが条件になります。指数連動以外の、いわゆるアクティブ型の公募投資信託についても条件が定められており、純資産総額50億円以上であること、設定から5年を経過していること、その5年のうち3分の2以上の期間で資金が流入超過となっていること、対象がレバレッジのかかっていない商品であることなどが求められます。

一方でETFについてはこうした細かい規定が十分に整っておらず、そのままでは対象として組み込みにくい状態にあります。今回の要望は、この未整備の部分をきちんと整備してアクティブ型のETFなども対象に含められるようにしてほしいというものですこの要望と、先に取り上げた非課税枠の当年中復活の要望を合わせて見ると、どちらかといえば投資家よりも業界寄りの内容という印象を受けます。回転売買を前提にした要望や、手数料を得やすくするための要望という側面も感じられ、金融庁の姿勢としてはやや物足りなさを感じるところです。

金融所得課税の一体化(15:13)

話は変わりますが、金融所得課税の一体化についても継続して要望が出されています。金融商品の中には損益通算ができるものとできないものがあり、これはNISA以外の特定口座や一般口座における話です。確定申告の有無にかかわらず、一定の範囲内では損益を合算できる仕組みがあるものの、デリバティブ取引については現状この対象に含まれていません。今回の要望では、デリバティブ取引や預貯金についても損益通算の対象に含めてほしいとされています。

デリバティブ取引が対象外となっている背景には、現状の税制上デリバティブが雑所得として扱われており、上場株式等の譲渡所得とは区分が異なるため、そもそも損益通算ができないという事情があります。日本の投資家は先物やオプションといった商品をあまり利用していませんが、これらは本来ヘッジ目的にも活用できるものです。しかし税制が別立てになっているために商品自体が普及しにくく、仮にヘッジ目的で利用したとしても税制上は別扱いになってしまいます。

たとえば長期保有を前提とした株式について、相場の下落が懸念される局面で一時的に先物を売ってリスクを打ち消すといった使い方も本来は考えられますが、損益が合算できない以上、こうした手法のメリットは限定的になってしまいます。

特定口座内での運用においても、利益が出ている部分と損失が出ている部分を合算して圧縮したいという需要は当然あり、こうした損益通算の一体化は平成17年度から継続して要望され続けているにもかかわらず、20年経った今も実現していません。

さらに預貯金についても、本来は金融所得として損益通算の対象に含めるべきだという声がありますが、銀行と証券を分離してきた歴史的な経緯もあってハードルが高い状態が続いています。アメリカでは銀証分離が進んだのちに再び統合が進んでいますが、日本では同様の統合はなかなか進んでいません。

なお、預貯金と投資信託の損益通算が一体化できれば、先ほど触れたイギリス型のISAのような制度設計に近づけることも可能になると考えられます。証券会社側の実務としてはMRFなど預り金に相当する仕組みもありますが、銀行側としては預金を証券口座に流出させたくないという事情もあり、この点も一体化が進みにくい要因の一つになっているとみられます。

今後は暗号資産などデリバティブ以外の資産についても2028年をめどに議論が進められる見通しですが、20年来実現していない要望であることを踏まえると、実現の可能性については慎重に見ておく必要がありそうです。それでも投資家にとっての利便性向上に直結する内容であるため、早期の実現を期待したいところです。

生命保険料控除制度の拡充の恒久化等(20:40)

続いて生命保険料控除の拡充に関する要望です。現行制度では令和8年・9年限りの時限措置として、23歳未満の扶養家族を有する場合に一般生命保険料控除の上限が4万円から2万円上乗せされる仕組みになっています。子どもが小さいうちに万一のことがあった場合に備え、死亡保障に加入する世帯を後押しする観点から設けられた措置ですが、これが期限付きの時限措置にとどまっている点には疑問が残ります。子育て世帯にとって死亡保障の必要性が変わるものではない以上、期限を区切らず恒久化してほしいというのが今回の要望です。

一方で、この要望と合わせて出されている死亡保険金にかかる相続税の非課税限度額の引き上げ要望には整合性の取れていない点が見られます。現行制度では、死亡保険金は法定相続人1人あたり500万円が非課税枠として計算され、配偶者と未成年者の人数に応じて非課税枠を加算する仕組みになっています。たとえば夫婦と子ども2人の世帯で父親が亡くなった場合、法定相続人3人分として1500万円までが非課税となり、それを超える部分は相続財産に算入されるかたちです。

今回の要望はこの非課税枠について、配偶者および未成年者の人数に500万円を乗じた金額を上乗せしてほしいというものです。しかし、生命保険料控除の拡充要望では対象を23歳未満としている一方、この相続税の非課税枠の要望では対象が未成年者、つまり18歳未満に限定されており、両者の間で年齢基準が揃っていません。

多くの家庭では子どもが大学を卒業するまでの間、教育費の負担に備えて死亡保障を用意していることを考えると、相続税の非課税枠についても23歳未満まで対象を広げるのが自然なはずです。こうした細部のつじつまが合っていない点や、この要望部分に説明図が用意されていない点からも、この要望に対する準備不足がうかがえます。

その他の要望(26:31)

このほかにも数多くの要望が出されていますが、その中には所要の措置と記載されているだけで、制度の整合性を取るためだけの技術的な内容にとどまるものも多く含まれています。注目すべき要望としては、先ほど触れた死亡保険金の相続税非課税限度額の引き上げに加えて、結婚・子育て資金の一括贈与にかかる贈与税の非課税措置の廃止が挙げられますこちらは令和9年3月31日をもって制度が終了する方向で要望されており、利用があまり進まなかったことが背景にあるとみられます。制度の利用を検討している場合は、この期限までに判断しておく必要があります。

もう一つ、財務省との共同要望として国債に関する税の検討も挙げられています。個人向け国債を国民により買ってもらいやすくするための制度整備や、要望の強い物価連動国債の商品化なども念頭に置かれているとみられますが、現時点では具体的な内容までは示されていません。

まとめ(28:11)

今回取り上げた税制改正要望全体を通して見ると、金融庁がSNSなどで話題になっているほどの内容にはなっていないというのが率直な印象です。未成年と23歳未満という基準が一つの要望の中で揃っていない点からも、十分に検討し尽くされているとは言いがたい部分が見られます。非課税保有限度額の当年中復活のように投資家の利便性向上につながる要望がある一方で、業界寄りとも受け取れる内容が目立つ点も気になるところです。

税制改正要望はあくまで要望の段階であり、実際にどこまで実現するかは年末にまとめられる税制改正大綱を待つ必要があります。今後も新NISAをはじめとする各種制度の動向を継続して取り上げていきますので、今回の要望が最終的にどのようなかたちに落ち着くのか、引き続き注目していきたいと思います。

またこちらの動画「金融庁、NISAを神改正!こどもNISA、スイッチングはどうなる?」では、子どもNISAや商品拡充、非課税枠の当年復活など、NISA制度の見直しポイントを解説していますのでぜひご覧ください。

動画アイコン 動画目次 [目次箇所から再生]