最高裁判決で変わる外貨建て投資の常識。日本人投資家は外貨建てで投資をする必要があるのか? 

2026年6月16日、外貨の取り扱いに関して非常に重要な最高裁判決が出されました。今後、外貨建ての金融商品を扱う際の利益計算などに大きな影響を与える可能性がある判決であり、多くの投資家にとって見過ごせない内容となっています。

どのような最高裁判決だったのか(0:54)

今回の判決では、外貨同士の交換などによって生じる為替差益についても課税対象になるという判断が示されました。

例えば日本円で米ドルを購入し、そのドルをユーロに交換してユーロ建てで投資をしようとした場合、ドルをユーロに交換した時点で、その時の円換算での価値が円安によって増えていれば、ドル自体の数量が増えていなくても為替差益が発生しているとみなされ、課税対象になり申告と納税が必要になるという判決です。実はこうした考え方は以前から存在していたものであり、今回はそれが最高裁の判決として明確に示された形になります。

多くの投資家の感覚としては、両替はあくまで通貨を替えただけで利益が確定したわけでも受け取ったわけでもないため、その時点では利益は発生していないと理解していたはずです。今回の裁判では、外国の金融機関で多額の取引を行っていた投資家が、円で入金した資金をドルに替え、さらにユーロや他の通貨へと替えていくという取引を繰り返しており、その過程では利益は発生していないものとして、最終的に円に戻した時点でまとめて必要な納税手続きを行っていました。

ところが税務署は、両替を行った時点ですでに利益が発生しているとして、その分の納税も必要だという処分を出しました。投資家側はこれを不服として争いましたが、最高裁では投資家側が敗訴し、判決が確定しています。

最高裁は、外貨や外貨建ての金融商品を購入した時点で、その時の円換算額が所得税法36条にいう収入すべき金額にあたり利益が発生しているとし、そこから外貨の取得金額などを差し引いた額が所得金額になるという判断を示しました。これは外貨建ての金融商品に投資している人にとって、かなり大きな影響を及ぼす判決だといえます。

外貨建て資産と外国資産は別物(4:14)

外貨を取得する目的としては、そのまま外貨として使いたいという場合もありますが、投資家にとっては外貨建ての金融商品を購入するための準備として外貨を保有するケースも少なくありません。ただし、外貨を保有していなくても外国の資産に投資することは可能であり、この点はまず切り分けて理解しておく必要があります。外貨建て資産と外国資産は別のものです。

外貨建て資産とは、代表的なものとして米ドル預金や米ドルMMF、米ドル建ての債券、外貨建ての保険などが挙げられます。一方の外国資産とは、全世界株式(オルカン)やS&P500、楽天VTなどを指します。両者の違いは、外貨で購入するか円で購入するかという点にあります。

また、売却や償還を受け取る際に円で受け取るか外貨で受け取るかという違いもあり、外貨建て資産は基本的に外貨で購入し外貨で受け取るものであるのに対し、外国資産は円で購入し円で受け取るものです。オルカンなどはまさに円で購入し円で受け取れる商品にあたります。

そして今回の判例は、こうした外国資産には関係がありません。購入時に円で支払い、売却時にも円で受け取る商品については今回の判例は一切影響を与えないため、オルカンやインデックスファンドで運用している人には何の関係もないということになります。

もともと個人投資家にとって外貨建ての金融商品はほとんど必要がないという考え方を発信してきましたが、それは主に両替の手間が煩雑であることが理由でした。

外貨に交換しなければならず、結局使うときにはまた円に戻さなければならないため面倒だという意味合いが強かったのですが、今回の最高裁判決を受けて、それだけでなく税金の計算も必要になってくるため、両替や購入、売却のたびに税金を計算してその年のうちに納めなければならないというより大変な事態になったといえます。ただし特定口座などでの扱いもあるため、その点についても後ほど触れていきます。

外貨建て投資をおすすめしない理由(7:56)

外貨建ての金融商品での投資をあまりおすすめしてこなかった理由としては、管理が煩雑であることに加えて、税金の計算が複雑になってしまうという点がありました。今回最高裁で争われた投資家も、そしておそらく多くの人も、両替や購入をした時点では利益を受け取っていないと感じていたはずです。しかし最高裁の判断では、その時点ですでに利益が確定しているとされ、為替差益について申告と納税が必要だということになりました。

しかもこの利益は雑所得に区分されるため、利子所得や譲渡所得など他の金融商品の取引で発生した損益と損益通算することもできません。なお手数料については、為替の実勢レートにすでに反映されている、いわゆるTTBやTTSといった仕組みの中に含まれているため、取得価格に織り込まれているとみなされ、別途計算する必要はないと考えられます。ただし、その分を経費として計上することはできなくなるという点には注意が必要です。

長期間にわたって円安や円高の影響を受けている投資家の場合、すでに為替差益が発生していたり、今後円高になった際に為替差損が生まれたりする可能性もあります。この為替差損についても雑所得となるため、繰越控除などの制度を使うことができません。同じ年の中で他の雑所得と損益が出ている場合には通算できますが、それ以外の方法はなくなってしまいます。

税計算が複雑になる(9:47)

今回の判例によって、税金の計算がさらに複雑になったといえます。例えば外国資産も含めて円で投資をして円で受け取るという場合、100万円を投資して120万円で売却したとすると利益は20万円になり、この20万円に対して特定口座内であれば20.315%の税金を納めればよいという理解で問題ありません。

一方でドル建ての投資をした場合はどうなるかというと、例えば100万円で為替レート100円のときに1万ドルを購入したとします。その後円安が進み1ドル150円になったとすると、保有している1万ドルの価値は150万円になります。さらにこの150万円分を使って米国株式を全額購入し、その後株価が上昇して1万ドルが2万ドルの価値になった時点で売却し、円に戻したとします。為替レートが150円のままだとすると、この金額は300万円になります。

投資家の感覚としては、売却をして円に換算した300万円を受け取った時点で初めて利益が発生し、投資した100万円との差額である200万円に対して20.315%の税金を納めればよいと考えるはずです。しかし今回の最高裁の判決ではそれは違うという判断が示されました。

最高裁の判決では、外貨を別の資産に交換した時点で為替差益が実現するという考え方が採用されています。先ほどの例に戻ると、まず100万円で1万ドルを購入した時点では為替レートが100円のままなので、この時点ではまだ利益は発生していません。その後円安が進み1ドル150円になった時点でも、まだ利益は実現していません。

しかし、この150万円分の1万ドルを使って米国株式を購入した時点で、為替差益が発生し実現したと判断されるのです。つまりこの時点で50万円分の為替差益について確定申告を行い、納税をしなければならないということになります。

投資家の感覚としては、まだ何も確定していないように感じられる部分ですが、最高裁の判断はこれよりも厳しいものになっています。さらにその後、米国株式の株価が上昇して150万円分が300万円になり、それを売却した時点でも、その時点で利益が確定するため、150万円分について納税をしなければなりません。

手元に残った2万ドルをそのまま保有し続け、年をまたいでからその2万ドルを円に戻す場合、円転した時点で為替レートがさらに変わっていれば、その差額分についても利益が発生し、納税が必要になります。例えば1ドル150円から160円になっていれば、その10円分の値上がりについても円転した時点で納税をしなければなりません。

為替差益が雑所得になるという点自体は以前から変わっていませんが、今回の判決では、両替をしただけであっても、金融商品を購入していなかったとしても、その時点で為替差益が発生しているとみなされる点が大きな変化です。米ドルで保有していたものをユーロ建てに交換し、そのユーロ建てで金融商品を購入したという場合でも、ユーロに交換した時点で為替差益が発生していると判断されることになります。

影響を受けそうな取引例(14:45)

今回の最高裁判決によって影響を受けそうな取引の例をいくつか挙げていきます。

まずは、米ドルで米国ETFを購入するケースです。100万円で1万ドルを購入し、そのまま保有していたところ円安が進んで1ドル150円になり、その150万円分の1万ドルを使って米国ETFを購入したとします。投資家の感覚としては、円に戻していないうえに米ドルを米国株式に変えただけであり、利益は発生しておらず投資を継続しているに過ぎないと考えるはずです。

しかし最高裁の立場では、100万円で購入したドルを150万円相当の資産購入に充てた時点ですでに利益を受け取っているとみなされ、50万円分の為替差益について納税をしなければならないということになります。

次の例は、外貨預金から外貨MMFを購入するケースです。ドルを保有していて円安になった後、そのドルで外貨MMFを購入した場合も、金融商品が変わっているという点で先ほどの例と同じ扱いになります。投資家としては、余っている資金を少しでも利回りのよい外貨MMFに置いておこうという程度の感覚だと思われますが、これも外貨を支払って別の外貨建て商品を購入していることになるため、この時点で為替差益が確定し、所得として申告する必要が出てくると考えられます。

さらに続く例として、外貨預金のドルをユーロに交換するケースがあります。海外旅行が好きな人などは、両替の都度手数料を取られるのを避けるために、ドルのまま置いておき、使うときにそのまま使おうと考えることがあります。例えばハワイ旅行で余った1万ドルほどを手元に置いておき、次にヨーロッパへ旅行する際に、余っているドルをユーロに交換して使おうと考えたとします。投資家の感覚では、円に戻していないうえにドルをユーロに変えただけであり、利益も何も発生していないように思えます。

しかし最高裁判決の立場では、円からドルに交換した時点では等価であるため変わらないものの、その後ユーロに交換した時点で為替差損益が発生していると判断されますこれは外貨をひとつの金融商品として扱っているということであり、法律上は雑所得として扱われるという点で、FXなどの為替取引と同様の考え方になります

よくある例として株式の取引についても触れておきます。日本円を米ドルに交換した時点では課税されないため、そのままドルを保有しているとします。そのドルでApple株を購入し、その後Apple株を売却してドルに戻した場合、Appleで利益が出ていれば、その分だけドル建てでも利益が出ていることになります。

そのドルを使ってさらにMicrosoft株を購入した場合、円に戻さずドルのまま株式を乗り換えただけという感覚になりますが、売却した時点のレートと購入した時点のレートの間に差があり、その間に円安が進んでいれば、その差額分について為替差益が発生していることになり、次の株式を購入する時点のレートの差によって納税が必要になります。

債券についても同様の例が考えられます。日本円を米ドルに交換し、すぐに米ドル建ての債券を購入し、満期でドルが戻ってきた際に、そのドルでまた別の米ドル建て債券を購入したとします。これもドルのまま保有し、債券を乗り換えただけで円には戻していないため、為替差損益は発生していないと考えがちですが、実際には債券の利息を受け取るごとに、その利息を取得した時点のレートと再投資した時点のレートの差によって為替差益が確定するとされています。

最初に購入したドル建て債券にゼロクーポンでない限り利息が発生し、米国側で源泉徴収されたうえでドルとして証券会社などに入金されます。そのお金を使って別の債券を購入した場合、利息を取得した時点のレートと購入した時点のレートの差によって、円安が進んでいればその分の為替差益が発生していることになり、これを利息を受け取るたびにすべて計算しなければならないということになります。

米国債は根強い人気がありますが、こうした複雑さも踏まえて、もともと個人投資家が外貨建ての債券を購入する必要は基本的にないという考え方を発信してきました。円建ての債券であれば、円で使うことを前提としているため保有する意味は十分にありますが、これまでは金利があまりに低い水準にとどまっていたため、1%を下回るような商品はあえて購入しなくてもよいと伝えてきました。

最近では金利が1%を超える水準になってきており、無視できない水準になってきていることから個人向け国債や新窓販国債といった円建ての商品については投資する意味が一定あるかもしれませんが、少なくとも外貨建ての債券についてはやはり必要ないと考えられます。

今回の判決を受けて、その計算の煩雑さがより一層明確になったといえます。問題になりそうなケースとしては、外貨預金を経由する場合や、外貨MMFを経由する場合、外貨で保有しているドルをそのまま放置している場合、さらにそれらを使って外貨建ての金融商品を購入する場合などが挙げられます。なお、手数料についてはTTBやTTSといった為替レートにすでに反映されているため、基本的に取得価格に含まれているとみなされ、別途手数料分を計算する必要はないと考えられます。

複雑な税計算なしに外貨建て金融商品を購入したい方(23:14)

それでも税金の計算を複雑にしたくない場合、どのような取引の仕方をすればよいかという点についても触れておきます。方法としてはおおよそ3つ考えられます。

1つ目は、円貨で買って円貨で受け取るという方法です。外貨建ての金融商品や外国資産、株式などを購入する際に、証券口座に米ドルの残高がない場合、円を振り込んで外貨に交換してもらい、そのまま購入してもらう形を取ります。売却時にも、外貨で受け取ったものをすぐに円に交換してもらい、円で受け取るという取引方法であればこれまでどおりの扱いになります。

国税庁もこうした円で払い込み円で受け取る取引については、譲渡所得などの計算に含めてよいという通達を出しており、これを利用すればこれまでと同様の扱いにすることができます。ただし、外貨に交換する際にすでに為替手数料を支払っているにもかかわらず、円で受け取ったあとに再び米国資産や米国株式を購入したいと思った場合には、また別途為替手数料を支払わなければならないという問題が発生します。

2つ目の方法は、特定口座やNISA口座の中で取引を完結させるという方法ですこの場合は外貨預金を使うことができなくなりますが、税金の計算は証券会社が行ってくれるため、雑所得として源泉徴収される可能性はあるものの、細かい計算を自分で気にする必要がなくなります。ただし、これが本当に雑所得としての扱いになるのかどうかについてはまだ不明確な部分が残っています。

3つ目は、給与所得者や年金受給者の場合、年間の所得を20万円以内に抑えるという方法です。20万円以内の所得であれば申告不要制度が使えるため、その範囲内に収めれば申告する必要がなくなります。

まとめ(25:30)

ここまでの内容を踏まえると、外貨建ての金融商品をあえて購入する理由はほとんどなくなってきているといえます。アセットアロケーション運用などで利用するインデックスファンドで、日本円で購入・販売されているものについては、ファンド内部で為替の交換や株式の売買が行われているため、今回の判例の影響を受けません。

ここで注意しておきたいのは、今回の判決が外貨建ての投資や米国株式、米国債そのものが危険であるということを意味しているわけではなく、日本人の個人投資家の多くは日本円で給与を受け取り、最終的には円として資産を受け取って使いたいと考えているため、あえて外貨で受け取る必要性は乏しく、それを行うと今回のように為替差益や税金の計算が非常に複雑になってしまうという点です。

今回の最高裁判決によって、外貨を保有することに伴う見えないコストや煩雑な手続き・税務処理が改めて浮き彫りになったといえ、最高裁の裁判官からも、外貨の円建てでの処理に関する明文規定が所得税法には存在しないなど法律の不備を指摘する補足意見が示されており、早急な制度の見直しが求められています。

特定口座での円建て決済などの実務が具体的にどう変わるのかはまだ示されておらず、国税庁からの追加の説明もないため、今回の判決の影響がどこまで及ぶのかは依然として不透明な部分が多く残っていますが、外貨で保有していた資金を円以外の通貨に両替した場合や外貨建ての金融商品を購入した場合には、その時点で為替差益が実現しているという判断が最高裁によって示された以上、これに沿って計算をするほかない状況になっています。

結論としては、外貨建ての資産で投資をする必要は基本的になく、外国資産への投資自体は引き続き有効な選択肢であるため、円建てで購入できるインデックスファンドなどを活用して運用を続けていくのがよいと考えられます。

またこちらの動画「【金利上昇】おすすめは預金?債券?差が出る安全資産の選び方」では、安全資産の選び方や債券と預金の違いを解説していますのでぜひご覧ください。

動画アイコン 動画目次 [目次箇所から再生]