年金GPIFの運用益41兆円、「元本割れリスク」を抑える仕組み 

最近のニュースで、年金を運用しているGPIFの2025年度の運用益が41兆円となり、歴代2位の成績だったという報道がありました。この結果について詳しく解説していきます。

マネーセンスカレッジでは、アセットアロケーション運用を推奨しています。アセットアロケーション運用とは、投資の3大原則である長期投資、資産分散、時間分散のうち、資産分散に該当する考え方に基づき、投資対象となるアセットを定義し、そこにさまざまなバランスで投資をしていく方法です。マネーセンスカレッジでは、全世界に満遍なく投資する全世界投資として、このアセットアロケーション運用を紹介しています。世界の経済成長に乗っていくことで、資産分散が効果的に機能するのではないかという考え方です。

ただし、こちらは有料サービスになるため、無料で手に入るアセットバランスとしては、GPIFが採用しているバランスが参考になります。そのバランスで2025年度(2025年4月から2026年3月末まで)運用した場合にどれくらいの収益があったのかが、年度ごとに公開されています。皆さんの年金を運用している主体の結果ですので、多くの方にとって興味深い内容になるはずです。

現在は自助努力として、自分自身で私的年金を運用していく時代になっています。その運用方法として、GPIFの運用方法は皆さんにとって有益な情報になるのではないかと考え、今回の動画を作成しました。

2025年GPIFの運用結果(2:09)

日本経済新聞の報道によると、GPIFの2025年度の運用益は41兆円で歴代2位となり、年金財政にもAI株の恩恵が入っているとのことです。歴代1位は2023年度の実績になります。国内債券以外はすべて伸びを示しており、中でも国内株式と海外株式がいずれも大きく増加した結果となりました。

GPIFは2025年度の運用状況を1枚のシートにまとめて公開しているため、その内容を順番に解説していきます。まず、市場運用開始以降の累積年率換算値、いわゆる年金積立金全体の実質的な運用利回りは4.33%となっています。これは2001年度から2025年度までの年率換算の数字です。

この4.33%という数字がどのように計算されているのかというと、名目の利回りではありません。実質的な利回りというのは、通常インフレを差し引いて計算するものですが、GPIFの場合は主管が厚生労働省であるため、与えられている目標がインフレ率ではなく賃金上昇率を基準にしています。デフレであればプラスに、インフレであればその分マイナスに調整される仕組みです。

実際にいくら増えたのかという名目の運用利回りで見ると、2025年度は15.86%、市場運用開始以降25年間の年率では4.62%となっています。ここからGPIFの目標である賃金上昇率を差し引く必要があり、この25年間の賃金上昇率の年率換算は0.28%にとどまっています。この4.62%から0.28%を差し引くと4.33%となり、先ほどの実質的な運用利回りの数字と一致します。25年間で賃金上昇率が0.28%しかなかったという点は、正直なところかなり厳しい現実だと感じます。

続いて、複合ベンチマーク収益率という項目があります。GPIFは国内債券、国内株式、外国債券、外国株式の4つの資産に25%ずつ均等に配分する基本ポートフォリオを設定しており、それぞれにベンチマークを定めています。国内債券は野村BPI総合、国内株式はMSCI日本株指数の配当込み、外国株式はMSCIオールカントリーワールドインデックスの配当込みネットといった具合です。これらのベンチマークに従って25%ずつ運用した場合の理論上の収益率と、実際の運用収益率との差がマイナス0.18%となっており、ほぼ誤差の範囲に収まっています。

ベンチマークはあくまで手数料や人件費などのコストを考慮していない指数であるため、実際の運用ではコストの分だけ数字が下がるのが自然です。また、売買のための現金を確保したり、年金資産として実際に支払いに充てる分を用意したりする必要もあるため、ベンチマークとは多少の差が生まれます。この差が0.2%以内に収まっていれば順調な運用だと言えるでしょう。

2025年度の収益率は16.47%と非常に高い数字になりました。4資産均等配分でここまでの成績が出るというのは驚くべき結果です。市場運用開始以降の収益率は4.67%となっていますが、これは先ほどの4.62%や4.33%とは計算方法が異なる指標です。

収益額については、2025年度単年で41兆3995億円、市場運用開始以降の累積では196兆9300億円という金額が公表されています。これが歴代2位の成績というわけです。このチャンネルでもGPIFの運用結果を毎年紹介してきましたが、当初は150兆円程度からのスタートだったことを考えると、現在の運用資産額293兆円という数字がいかに大きく積み上がったかがわかります。

全世界で運用されている年金基金の中でも非常に規模が大きく、クジラと呼ばれる所以でもあります。もちろんこれほどの金額があっても皆さんの年金が将来にわたって安泰だと断言できるものではありませんが、これまでに運用収益から年金特別会計への納付金として約20兆円近くを拠出してきた実績があります。

資産構成割合についても、実際にこのバランスを参考に運用しようと考える方には有用なデータです。基本ポートフォリオは4資産それぞれに25%ずつを配分し、外国債券だけはプラスマイナス5%、その他の資産はプラスマイナス6%までの乖離を許容し、債券と株式それぞれの区分でもプラスマイナス9%までにとどめるというルールで運用されています。現状では国内債券の割合がやや高めですが、それでも2%以内の乖離に収まっており、許容範囲内だと言えます。

各資産への配分の回収額については、アセットアロケーション運用であるがゆえに、ある資産を売って別の資産を買うことでバランスを整える動きが発生します。国内株式が大きく値上がりした結果、国内株式などを約10兆円売却し、国内債券などに資金を振り分けたという状況になっています。

プラス側とマイナス側の合計が一致しないのは、年金資産として新たに入ってきた余剰資金も運用に回されているためで、この分がプラス側に上乗せされています。単純にリバランスだけの金額を示したものではありませんが、国内外の株式を売却して債券を購入するという傾向自体は読み取れます。

運用にかかった手数料は0.02%と非常に低い水準にとどまっています。これに加えて人件費なども当然かかっているとは思われますが、コストの低さは際立っています。2025年度の年金特別会計への納付金は7000億円となり、これも大きな金額です。運用が順調であることが、こうした形で年金財政の下支えにもつながっています。

最近では片山財務大臣が国内株式への投資を増やしてはどうかという趣旨の発言をした一方、厚生労働大臣はこの運用バランスについて、先述の賃金上昇率プラス何%という目標をもとに、年金財政の見通しから逆算して決められたものであり、安全に運用できる範囲も考慮した上で設計されていると説明し、時の政府の意向だけで日本株式を買い増すことについては慎重な姿勢を示していました。

このアセットバランスは年金財政の計算に基づいて綿密に設計されたものであり、単に日本株式を買えという話とは根本的に性質が異なります。もし国内株式に極端に偏らせたいのであれば、それはNISAなど個人の判断で行う投資の話であって、年金運用の枠組みで行うべきものではないというのが率直な感想です。

もちろん、投資対象として日本株式に将来性があると判断されれば、市場の中で自然とその割合は増えていくものであり、実際に国内株価が上昇してきた背景には、そう判断して買う投資家が増えたことがあります。政治的な意向で年金運用のバランスをいじるべきではないという考え方には共感できます。

GPIFの運用の強さは「元本割れのリスクを抑えられる」こと(15:45)

GPIFの運用の強さは、アセットアロケーションによってディフェンシブに運用している点にあります。これはまさに長期投資、資産分散、時間分散という投資の3大原則を体現したものです。時間分散については、すでに資産があるという前提で運用されているため皆さんの状況とは異なる部分もありますが、少なくとも長期投資と資産分散の考え方に基づいて運用されているからこそ、安定的な成績につながっています。

その強さを示すデータとして特に興味深いのが、元本割れのリスクに関する資料です。GPIFは毎年この数字を更新して公表しています。分散投資をしていても、1年単位のリターンで見るとマイナスになる年は当然あり、過去24回の年度のうち6回は元本割れという結果になっています。それでも累積では大きくプラスに転じているため、1年単位での上下だけを見て一喜一憂することにはあまり意味がないと言えます。

一方で、10年間という期間で見ると話は大きく変わってきます。過去10年間の運用期間で区切った場合、元本割れとなった回数はゼロ回でした。これはリーマンショックの時期を含んだ結果です。当時は金融システムの崩壊が懸念され、金融機関が次々と経営破綻するのではないかとまで言われた深刻な株価下落局面でしたが、それでも10年間という単位で見れば元本割れには至りませんでした。

ただし、これはあくまで過去の実績であり、今後も10年間運用すれば必ず元本割れしないということを保証するものではありません。それでも、長期投資がいかに重要であるかを裏付けるデータであることは間違いありません。長期投資をするために分散を行い、その分散には資産分散と時間分散があるという考え方が、ここで改めて裏付けられています。

株式だけで運用した場合どうなるのか(18:05)

それでは、GPIFが10年という期間を目安にしている中で、アセットアロケーション運用をせずに株式だけで運用した場合はどうなるのでしょうか。GPIFのベンチマークにも組み込まれているオールカントリーワールドインデックス、いわゆるACWIに100%投資した場合のデータを見てみます。

野村アセットマネジメントが公表しているデータによると、ACWI100%での運用では、15年程度の期間を経なければ元本割れの可能性がなくならないという結果が出ています。10年間の運用では依然としてマイナス2%という結果が出ており、株式だけに集中した場合は10年では足りず、15年以上の期間が必要になるということです。マイナス2%という数字は誤差の範囲と見ることもできますが、それでもマイナスが発生している事実は重要です。

GPIFの分散運用では10年間で元本割れがなかったことを踏まえると、株式一本での運用よりも分散運用の方が短い期間で安定した結果を出せているということになります。なお、この期間におけるACWIの平均利回りは、10年でも15年でも20年でも7%程度で、税引前の配当込みグロスベースでの数字です。オールカントリーの期待利回りとして10%程度という話を耳にすることもありますが、統計的に見ると1年では9%程度、10年では7%程度に収まるのが実態に近いと考えられます。

マネーセンスカレッジの全世界投資では何年?(19:47)

それでは、マネーセンスカレッジで紹介している全世界投資の方法では、何年の運用期間があれば元本割れを避けられるのでしょうか。1年間の運用で見ると、この方法であってもやはり元本割れする期間は存在します。GPIFのデータは年度単位でしか見ていませんが、こちらでは1年間の運用結果を1か月ずつずらしながら集計しているため、より細かい分析になっています。

このグラフでは、100を基準にして100を下回っている部分が元本割れを示しています。1年間の運用で元本割れとなった期間は全体の23.4%に達しており、割合としてはおよそ5年に1回は元本割れが発生する計算になります。リーマンショックの時期はもちろんマイナスとなっていますが、それ以外の局面でもマイナスとなる期間が散見されます。それでも、それを上回るプラスの期間があるからこそ、長期的にはプラスへと転じていく結果になっています。

次に5年間の運用で見てみると、こちらもリーマンショックが主な要因となってマイナスとなる期間が存在します。加えて、2020年のコロナショックの時期にも100に近い水準まで落ち込んだ場面がありました。5年間の運用における元本割れの確率は10.64%となっており、10回に1回程度の頻度で元本割れが発生する計算です。

さらに期間を延ばして見ていくと、元本割れがゼロになった期間は7年間でした。リーマンショックを含めても、7年間の運用期間があれば過去の実績上は元本割れは発生していません。運用は利益を得るために行うものであり、元本割れがなかったというだけでは基準として低すぎるのではないかという見方もあるかもしれませんが、そもそも7年間という短い運用期間を前提として想定していたわけではなく、それでも過去の実績としては7年で元本割れがなかったという点は特筆に値します。

GPIFがディフェンシブな運用をしていても10年経たなければ元本割れがなかったとは言えなかったのに対し、こちらの方法では月単位でずらした分析であっても3年ほど短い期間で元本割れがなかったという結果が出ています。

この違いは、アセットバランスの組み方がいかに重要かを示していると言えるでしょう。こちらのアセットバランスはGPIFと比較すると債券比率が低く、ややアグレッシブ寄りの配分になっていますが、リスクとリターンのバランスを踏まえた上で、同じ配分をそのまま維持し続けるのではなく、市場の変化に応じて月単位で調整を加えながら安定運用を図っています。こうした運用のあり方が、この成績につながっていると考えられます。

長期投資と資産分散の重要性は、このデータからも改めて確認できます。まとまった資金がある場合には時間分散も取り入れることが望ましく、運用期間が短い人ほど株式一本ではなく資産分散が必須になります。理由は単純で、資産分散をしなければ元本割れの可能性が高くなってしまうからです。

10年未満で使う予定のお金については、そもそも運用に回すべきではなく、積み立て貯蓄という方法で備えるしかありません。もちろん7年や5年といった期間で見れば元本割れの確率はそれなりに低いとも言えますが、どこまでのリスクを許容するかは人それぞれであり、際限なく議論が続く部分でもあります。

家計というものはそもそも安定していてほしいものです。今月の給料が入らないかもしれない、来年には給料が半分になるかもしれないといった状態では、安定した生活を送ることはできません。だからこそ家計にギャンブル的な要素を持ち込むべきではないと考えます。投資という枠組みの中でも、ギャンブルに近い手法を取り入れる場合であっても、あくまで余剰資金の範囲内で行うべきです。

余剰資金とは、今すぐには使わないけれども将来的には使う予定のあるお金のことを指します。そのお金を運用しないという選択をすれば、将来的な家計の豊かさを諦めることにもつながりかねません。とはいえ、世の中に絶対確実なものは存在せず、将来を100%保証してくれる存在もありません。投資は自己責任の世界であるからこそ、自分自身の力とコントロールによって、できるだけ安定した方法を選び取っていく必要があります。

これまで人類が積み重ねてきた知見の中で、アセットアロケーション運用はこうした課題に対する一つの有効な答えだと考えています。もちろん、家計の中にギャンブル的な要素を取り入れたいという方はそれも一つの人生の選択であり、余裕資金の範囲であれば自由に楽しんでいただければと思います。ただ、多くの方は安定した生活基盤があってこそ幸せを感じられるものであり、来年の暮らしがどうなるかわからないという状態で幸せを感じ続けるのは難しいはずです。

まとめ(27:01)

国や企業が生活を保証してくれる時代が終わりつつある今、生活を安定させるためには自助努力が欠かせません。どのように運用すればよいかわからないという方にとって、アセットアロケーション運用は大きな助けになるはずです。元本割れの確率を下げ、安定した運用を実現するためのカギは、長期投資と資産分散にあります。

GPIFのデータは無料で公開されており、詳細な資料も用意されています。関心のある方はGPIFのレポートや1枚でまとまった資料を確認してみることをおすすめします。

またこちらの動画「【日経平均7万円】もし今リーマンが来たら資産半分以下…大暴落を追体験」では、リーマン級暴落が来た場合の資産への影響を追体験できるのでぜひご覧ください。

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