新NISAでオルカン・S&P500が買えなくなる?「国内投資枠」はアリかナシか

片山さつき金融大臣が「国内投資枠」について検討すると発言したことが、投資業界で大きな話題となっています。この発言を受けて、新NISAでオールカントリーやS&P500が買えなくなるのではないかという懸念の声も上がっています。

予算委員会の質疑において、海外への資金流出が問題ではないかという質問に対し、金融大臣は「オールカントリーやS&P500が選ばれているのは残念」としつつも、パフォーマンスへの期待があることを認め、魅力的なものにしていきたいと答弁しました。

この答弁がSNSやニュース記事で取り上げられ、新NISA利用者の間で今後の制度変更への不安が広がっています。質疑では、フランスやイタリアが国内投資を優遇している国際比較も紹介され、日本でも同様の制度を作るべきかという議論がなされました。

ただし、答弁では積極的に国内投資枠を作ると明言されたわけではありません。現時点では具体的な方向性があるとは言えない状況ですが、「国内投資枠」という言葉が出てきたことで、多くの投資家が注目することとなりました。

「国内投資枠」についてマネーセンスの見解(1:48)

国内投資枠のような投資を縛る制度には基本的に反対の立場です。このような制度が導入されると、利用者が減少してしまう可能性が高いと考えられます。

そもそも問題の本質は、自由な市場において国内投資が魅力的であれば、自然と投資資金が増えるはずだという点にあります。マーケットに枠組みをはめるのではなく、国内投資の魅力を高めることを優先すべきです。

もちろん税制優遇が入っている以上、政府の意向が反映されることは理解できます。しかし、新NISAを含めた資産運用施策は、国民の貯蓄を投資に向かわせることが目的であり、国内に投資させることを強制する政策ではありません。

予算委員会では、新NISA全体の6割から7割が海外資産であると指摘されましたが、この数字は健全だと考えています。政府はなぜこのような状況になっているのかを考え、日本への投資を増やしたいのであれば、国内株式投資の魅力を高めることに注力すべきです。魅力があれば自然とお金は集まります。

フランスなどで導入されている同様の制度の利用率を見ると、相当低い水準にとどまっています。優遇措置があっても使いづらい制度は結局利用されない傾向があるため、国内投資枠が導入されても利用する人は少ないと予想されます。

現状でも3割から4割が国内に向かっているわけですから、一定の投資義務を課したとしても、すでに十分な投資がなされていると言えます。

「国内投資枠」を導入することで起きるデメリット(4:36)

国内投資枠を導入することには、いくつかの大きなデメリットがあります。

第一に、分散投資の理念に反するという点です。導入の方法にもよりますが、フランスやイタリアのように国内投資だけに限定して税制優遇を与える形になれば、投資の基本である分散投資ができなくなってしまいます。

投資においては国際分散投資が基本中の基本です全世界に満遍なく投資をするという考え方が重要ですが、国内投資枠のみになった場合、日本人が日本株式だけを購入することになり、大きな偏りが生まれます。これはホームバイアスと呼ばれる現象で、自国の株式にのみ投資してしまう傾向を指します。

保護主義的な動きやトランプ政権のアメリカファーストのような流れがある一方で、経済はグローバルに進展しています。資産を投資する際には、国際分散投資が不可欠であり、この理念に反する制度は問題があります。

第二のデメリットは、政府が投資先を指定するという考え方の危険性です。国内成長のためという理由が挙げられていますが、成長力があれば自然と資金は集まります。実際に日経平均も上昇しており、それに乗り遅れまいと新NISAで購入している投資家も多いはずです。

日本株式に魅力があることは20年以上前から指摘されてきました。日経平均が7000円台だった頃から、分散投資の観点で日本円で生活する以上、一定程度の日本株式投資は必要だと説明されてきたのです。

国の成長戦略として特定の業界や企業を支援することは問題ありませんが、個人投資家の投資先の自由が制限されることには問題があります。さらに、ルールや政権が変わるたびに個人投資家が振り回されてしまう懸念もあります。

税制を含めて新NISAは恒久化されたのですから、自由度を残して国民に委ねる方が適切だと考えられます。

もう一つの論点として、国内成長のための資金という考え方には疑問があります。愛国心という言葉も使われますが、投資の目的は基本的に老後資金の確保です。老後の生活費を準備するために投資をしているのであって、国のために投資するわけではありません。

円安や金利、成長力などの面で、海外と日本には温度差があります。これを国内投資だけに縛ることは、投資家にとって不利益となる可能性があります。

国内投資を増やし、魅力を高めたいのであれば、円安対策が必要です。円安が続く以上、海外資産を持たなければ資産を守れないのが現実です。S&P500やオールカントリーに一定数投資することは理にかなっており、投資家はそこに魅力を感じているからこそ海外に投資しているのです。

キャピタルフライト、つまり日本円が売られて海外が買われて円安に向かう動きを抑制したいのであれば、金融政策や財政政策自体を見直すことが重要です。

アベノミクスから考えると、円安誘導の上で金利を低く抑え、輸出製造業を育成することで国内経済力をつけ、国民を豊かにするという戦略でした。消費税増税も輸出企業に有利に働きましたが、結果として国民の所得は増えませんでした。

現在の高市政権は、これを修正しようと積極財政の考え方を取り入れています。日本が内需に舵を切り、内需を拡大させていく方向性は一定の理解ができます。国内投資を増やしたいという気持ちはわかりますが、まずは政府が改善できることを改善すべきです。

SNSなどを見ても、国内投資枠に賛成する意見はほとんど見られません。新NISAが始まった時にも国内投資枠を設けるべきという議論は一定数ありましたが、現状で3割から4割が国内に向かっているため、わざわざ縛りをかける必要はないと考えられます。

むしろ、より魅力的な投資環境を整えることで、この3割4割が5割6割と増えていく世の中を目指す方が健全だと言えます。

“縛り”ではなく”優遇”のアイデア紹介(11:57)

野村證券なども提案している現実的なアイデアとして、日銀が保有している日本のETFを払い出すという方法があります。

最近のニュースで、日銀がETF売却を決定したことが報じられました。年間3300億円ずつ売却していく計画ですが、この速度では売却完了まで100年以上かかる計算になります。

そこで、例えば5年や10年といった長期保有を条件に、日銀のETFを個人投資家に払い出すという案が考えられます。日銀の平均購入単価は1万円程度と推定され、現在の株価5万円と比較するとかなりの含み益があります。

この含み益を利用して、簿価または一定のディスカウント価格で個人投資家に売却すれば、多くの投資家が購入に興味を示すのではないでしょうか。特に若い投資家は10年以上保有することが前提になりますので、条件を満たせる可能性が高いと考えられます。

ディスカウント購入はIPOのような形になり、一定数の金融資産増加につながります。国民の金融資産が約2000兆円と言われる中で、日銀のETF保有額は約80兆円程度ですから、十分に消化できる規模です。

日銀がコーポレートガバナンスの観点から大量に株式を保有し続けることが問題視されているのであれば、速やかに解消した方が良いという考え方もあります。国策に合致するのであれば、日銀が積極的に取り組むべき課題と言えます。

この方法であれば、投資を持っている人と持っていない人の格差という問題も、新NISAと同様の枠組みで対応できます。すでに新NISAは非課税枠が1800万円まで拡大されており、年間360万円の投資枠があります。

ただし、月30万円を投資できる人は限られています。平均年収が約30万円程度であることを考えると、全額投資に回すことは現実的ではありません。

新NISA制度は非常に優れた制度ですが、さらに普及を拡大させたいのであれば、規制ではなく優遇措置を与える政策の方が効果的です。金銭教育や資産運用の教育も必要ですし、日銀が保有するETFを速やかに売却して個人に払い出す方法も検討に値します。

マーケットへの影響もなく、日銀の問題も解消され、国民の金融資産も増えるという三方良しの結果が期待できます。5年から10年の保有期間の縛りをかけても、すぐに使う予定のない資金であれば十分に魅力的な選択肢となるはずです。

例えば2割程度のディスカウント価格で購入できれば、2割程度の下落までは元本割れしません。コロナショックやトランプショック、最近の日銀ショックでも下落幅は2割程度でしたから、十分にリスクに耐えられる水準と言えます。

一見すると冗談のように聞こえるかもしれませんが、実は非常に現実的な提案だと考えられます。

まとめ(16:31)

政策動向を追いかけ、政治参加することは非常に重要です。ニュースを見て自分自身の意見を持つことも大切ですが、資産運用という観点では投資戦略が必要になります。

投資戦略の上位にあるのがファイナンシャルプランです。必要な時に必要なお金を用意する手立てとして投資があり、新NISAの非課税制度は非常に大きな枠で便利なものですから、活用することは理にかなっています。

老後資産設計を考えると、新NISAに加えてiDeCoや企業型DCなどもありますので、これらのバランスを考えながら新NISAをうまく利用して投資に向かうことが重要です。

そこに水を差すような規制は、適切な政策とは言えません。行動経済学の観点からも、罰則を与えるよりも飴を与える方が効果的です。日銀のETFを安く売却するといった優遇策の方が、制度の普及に貢献すると考えられます。

新NISA制度は非常にお得な制度であり、多くの人に利用してもらいたいという思いがあります。制度が普及していくことは素晴らしいことですが、今回の国内投資枠のような方向性は基本的に不要だと考えられます。

日本株式も当然必要であり、日本株式を含めたアセットアロケーションを使った投資戦略が推奨されます。日本人が全世界に満遍なく投資できるように、全世界投資という方法が有効です。

政策の変化に一喜一憂するのではなく、長期的な視点で自分に合った投資戦略を持つことが、資産形成において最も重要なポイントと言えるでしょう。

またこちらの動画「日銀が“ETFを売る”と決めた日。「終わりの始まり?」」では、日銀のETF売却の背景と政策意図、今後のマーケット見通し、個人投資家が取るべき戦略を網羅的に解説していますのでぜひご覧ください。