個人向け国債でインフレ対策はできるか?
先日公開した個人向け国債に関する動画が大変好評で、多くのコメントをいただきました。その中で、「この2〜3%のインフレ局面に日本円での元本保証にこだわるのは逆にリスクではないか。安定的にマイナス1〜2%の価値消失が見込まれるのでは」というご意見がありました。
こちらのコメントについて、改めて解説していきます。
インフレ対策で個人向け国債をおすすめしていない(1:42)
まず前提として、動画内で説明したのは、インフレ対策のための投資商品として個人向け国債を購入しましょうということではありません。この点は動画内でも繰り返しお伝えしていますが、視聴者の中には初めて見る方もいらっしゃるため、誤解を招いた部分があったかもしれません。
結論から言いますと、個人向け国債は現在の金利上昇局面やインフレが継続している状況において、運用先としておすすめしているわけではありません。インフレ対策として十分かと問われれば、一部にはなりますが完全ではないというのが答えです。
その理由は、投資できないお金というものが存在するからです。長期投資をおすすめしていますが、短期投資は個人の方には難しいと考えています。誰でも再現性高くできる方法として長期投資があり、投資期間としては10年程度は確保したいところです。
そうすると、10年未満の資金、つまり10年以内に使う予定のお金をどうすればよいかという問題が出てきます。現在は足元で3%程度のインフレがあり、何もしなければ価値が目減りしてしまいます。できるだけ安全資産の中で、わずかでもインフレをヘッジできるものはないかというニーズに応えるため、個人向け国債が注目されているのです。
コメントをいただいた方のおっしゃる通り、実質的な利回りはマイナスになってしまいます。インフレ率を考えると、保有しているだけで価値はどんどん目減りしていきます。投資をすれば、インフレ以上の利回りを求めて運用しますので、インフレを上回る期待利回りが得られます。しかし、投資できない資金の逃げ先として、インフレに少しでもヘッジできるものとして、個人向け国債の変動10年をおすすめしているのです。
個人向け国債のおさらい(3:34)
11月募集分の個人向け国債は、かなりの利回りになりました。1%を超えたのです。11月7日から11月28日募集分で、変動10年が1.11%、固定5年が1.19%、固定3年が0.99%となっています。これらはいずれも税引前ですが、1%超えは魅力的な水準です。0.05%の時代が懐かしく感じられます。
現在のネット銀行の普通預金で考えると、0.2%程度が一般的で、高いところでも0.4〜0.5%程度です。キャンペーン金利を含めても、誰でも買える商品として1%超えはインパクトがあります。
個人向け国債には3つのタイプがあります。変動10年は満期が10年で、金利タイプは変動金利です。変動金利の債券は珍しく、個人が購入できる変動金利商品として非常に貴重な選択肢となっています。固定5年と固定3年は、それぞれ5年、3年の満期で固定金利です。
金利の設定方法も異なります。変動10年は、基準金利に0.66をかけたものです。基準金利は10年国債の利回りを参照しており、10年国債の2営業日前の利回りから66%を計算します。10年国債は固定金利なのに、それを参照して変動金利にしてくれるという、かなりお得な仕組みです。
この0.66という係数が絶妙で、0.5だと実質5年債と変わらなくなってしまいますが、0.66だと明確なメリットが生まれます。固定5年は基準金利から0.05%を引いた金利で、基準金利は3年債と5年債の高い方を見ています。固定3年も同様ですが、マイナス0.03%となっています。
最低金利は0.05%で保証されています。これは金利が非常に低かった時代に設定されたもので、当時は0.05%でも嬉しい水準でした。利払いは半年ごとに年2回行われます。
購入単価は1万円から1万円単位で購入できます。額面金額も100円につき100円ということで、額面通りに購入できます。債券投資は初心者には難しいことが多いのですが、額面に対して100円で購入できるのは非常にわかりやすい仕組みです。
途中換金も可能です。普通の債券は途中換金ができず、誰かに売却するしかありませんが、個人向け国債は元本が保証されています。ただし、いつでもできるわけではなく、発行後1年間は換金できません。また、満期以外で換金する場合は、直近2回分の利子相当額を差し引かれます。この計算には税金分(20.315%)が含まれているため、実質的には元本そのものは保証されます。
つまり、1年経過後に解約した場合、利子2回分が引かれるものの、元本は政府が保証して戻ってきます。募集は毎月行われますが、月初と月末は購入できません。購入できる金融機関も幅広く、ゆうちょ銀行、ネット銀行、ネット証券などで購入可能です。
個人向け国債のメリット(9:22)
個人向け国債の主なメリットは3つあります。まず元本の心配がないことです。1年間は解約できませんが、その後は解約でき、途中解約しても元本までの心配はありません。
次に1万円から購入できることです。一般的な債券は100万円からが多いのですが、個人向けということで1万円から購入できます。
最後に金利の最低保証として0.05%があります。現在となってはそこまでの魅力ではありませんが、当時はこの0.05%でも嬉しい水準でした。
上手な使い方6選(10:01)
個人向け国債の上手な使い方として、過去の動画で6つ紹介しています。教育資金の準備、定年退職後の生活資金のブリッジ、旅行の積み立てなどの大型支出に対する積み立て、親の介護や医療費の備え、インフレ対策の一部として、そしてペイオフ対策です。2000万円までのペイオフ対策として、国債であれば全額保証されます。
これらに共通するのは、投資に向かないお金だということです。資金を守りと攻めで考えると、10年以上使うまでに期間がある資金については、投資を取り入れていただきたいのです。ただし、全額を投資に回すことを推奨しているわけではなく、リスク選好度に応じて調整してください。リスクを取りたくない方には、こういった選択肢もあるということです。
現在、足元で3%程度のインフレが続いており、徐々に下がってきてはいますが、金利が1%ついたとしても実質的には2%程度のマイナスになってしまいます。これがずっと続くかどうかはわかりませんが、少なくとも現状ではヘッジできないのが実情です。その意味では、リスクを取ることも必要になってくるかもしれません。
ただし、リスクを取ると当然、元本割れの可能性があります。リーマンショックもありましたし、その気持ちは非常によくわかります。全部を運用に回さなくても、一部を運用に回し、残りをリスク許容度に応じて変えていくという方法で個人向け国債を使うこともできます。
基本的には投資に向かない資金、つまり長期投資として推奨している10年間程度の期間を確保できない資金や、10年以内に使う予定が決まっているお金に適しています。
ファイナンシャルプランニングを重視する観点から、資産運用をしたとしてもギリギリまで投資をしていると、相場が下がった時に怖いということで、大体3年程度を目安に投資から引き上げることを推奨しています。その3年間、徐々に取り崩すことがあります。
例えば教育資金であれば、お子さんが18歳の大学入学時にまとまったお金がかかります。ただし、一括でかかるわけではなく、大学1年生から4年生まで、半期ごとや毎月払いなどさまざまな形でお金が必要になります。そのため、15歳から毎月や半年ごとに分割して現金化していき、プールされたお金をできるだけ利息がつく状態で保存しておくという目的で使うことになります。
個人向け国債でインフレ対策はできるのか?(12:57)
タイトルにもあるように、個人向け国債の金利でインフレに勝つことができるのかという問いについてです。これは金利が下がり始める時、または金利が上昇しすぎて過熱状態から徐々に落ち着いてきた時に可能になります。金利が下がっていく時は、常に金利がインフレを上回っている状況が続きます。
日銀の金利はビハインド・ザ・カーブ(カーブの後ろ)と言われ、そのカーブとはインフレのことです。インフレが上昇したら金利が上がるため、金利はインフレよりも後に来るのです。ただし、これはあくまで短期金利の話で、長期金利はそれにプラスして上がっていきます。現在の10年国債は大体1.7%程度あり、その66%が変動10年の金利となるため、インフレに追いつくこともあります。
基本的にはインフレの後を追いかける形になります。インフレが過熱し続けると、消費者も生活しづらくなり、企業も成長しないため、金利が上回ってきます。インフレを抑制する動きで金利も下がり始め、そうすると金利がインフレを上回る状態が続いていきます。
債券投資は景気が上昇してピークから下がってきた時に魅力があり、上がっている時は株式投資に魅力があるというのが基本的な投資の考え方です。
現在の状況を見ると、日本もインフレしてきて金利も上がり始めています。つまり今は金利上昇局面です。金利上昇局面で景気も良くなってくるはずですが、今まで景気が良く感じられなかったのは手取りが少なかったためです。現在の政権では所得を増やそうという動きがあり、手取りを増やして豊かさを実感できるようになれば、さらにインフレになる可能性があります。さらにインフレになれば金利も上がっていくという循環が起こります。
どうしてもインフレが先行し、金利、特に国債は最も低い金利になります。個人向け国債はさらに66%掛けですから、長期金利が高いとはいえ、どうしても遅れてくることになります。
これは商品特性なので、理解した上でインフレヘッジをするため、インフレに勝つために金融商品を購入するのであれば、投資を取り入れた方が良いでしょう。特にこういった上昇局面では、株価も上がっています。
今後、金利が上がっていくと円安から円高に向かう可能性もあり、海外資産よりも国内資産の比重を高めることも検討できます。そうした方法論については他の動画で詳しく扱っていますので、ぜひ参照してください。
まとめ(16:04)
結論として、個人向け国債ではインフレをヘッジできません。特に金利上昇局面ではヘッジはできないのです。ただし、わずかでもヘッジしたいというニーズもあります。それは投資に向かないお金もあるからです。
投資家であると同時に消費者でもあるため、消費をしながら人生を過ごしています。使うという場面がどうしてもある以上、安全資産で保存しておくことも必要になります。これはファイナンシャルプランで考えるべきことですが、一定額を安全資産として保存しておかなければなりません。
教育資金や家族旅行などに使う資金は数百万円という金額になることもあります。それをできるだけ保存しながら運用しようとすると、やはり金利がある程度高い方が良いのです。使う期間が決まっているのであれば、普通預金ではなく、すぐには引き出せませんが1年経てば引き出せる個人向け国債を検討する価値があります。ペナルティはありますが、そこを考慮しながら購入していく形になります。
現状でのおすすめは個人向け国債の変動10年です。その理由は、金利が上昇していく局面だからです。この点についても過去の動画で扱っていますので、ぜひ参考にしてください。
インフレに本当に勝ちたいのであれば、やはり資産の中で投資をしていただきたいのです。その際には、ファイナンシャルプランがあり、資産運用としての投資戦略が必要です。全世界に満遍なく、世界の経済成長に乗っかっていくという方法で、債券も株式もさまざまなものを購入します。そうすると何が起きたとしても、アセットバランスを整えていくだけで、安定して安全に運用することができます。
投資はしていただきたいと考えています。必ずしなければいけないわけではありませんが、インフレのことを気にするのであれば投資をおすすめします。ただし、投資できないお金もありますから、その部分で個人向け国債を活用していただければと思います。
またこちらの動画「【反則級】元本割れしない投資商品?!個人向け国債のお得な使い方6選」では、国が元本を保証する“変動10年”を中心に、教育資金や退職後の生活資金、親の介護費用、インフレ対策やペイオフ対策まで目的別に使い分ける実践的な6つの活用法をわかりやすく解説していますのでぜひご覧ください。





