資産を増やす人の利益確定が思っていたのと真逆だった!

以前、6月の投資信託への資金流入が過去最少だったというニュースを取り上げた際、「流入よりも売りが多かった」ことを指摘しました。積み立ての資金流入は安定的に続いていたものの、それを上回る資金流出があり、その流出の理由はおそらく利益確定であると分析しました。

この利益確定について、実は多くの投資家が陥りがちな罠や考え方の違いが存在します。今回はそれらについて詳しく解説します。

長期投資の基本的な考え方(1:36)

まず前提として確認すべきは、投資家として資産を拡大していきたいという目標です。現在保有している資金だけでは不十分であり、より大きな資産形成を目指している投資家がほとんどであると考えられます。この前提に異論はないでしょう。

この目標を達成するためには、継続的な投資が不可欠となります。短期的な売買を繰り返す場合であっても、売却後には再び投資対象を購入する必要があり、この売買サイクルを長期間にわたって継続していかなければなりません。

長期投資は長期間の保有を前提とし、短期投資は短期間の保有を前提としますが、いずれの手法においても長期間にわたる投資継続が必要である点に変わりはありません。これが投資における根本的な前提条件です。この前提を理解せずに以下の内容を検討しても、その意味を正しく把握することはできません。

ここで注目すべきは、多くの投資家の利益確定に対する認識と、本来あるべき認識が正反対であるという点です。多くの投資家は利益確定を「投資の終了」として捉えています。しかし実際には、利益確定を行った後こそが真の投資活動の開始点となります。この認識の相違により、議論が平行線をたどることが多いのです。

前述のとおり長期間の投資継続が前提である以上、売却した資産は再び購入する必要があります。この点を理解することが重要です。

売ってからの買い時(3:14)

では、利益確定を行った場合、いつ再購入すべきでしょうか。一般的な考え方では、売却時よりも価格が下落したタイミングで買い戻すことが合理的であると思われます。

具体例で考えてみましょう。投資信託の平均取得単価が1万円で、それが1万5000円まで上昇したとします。その後価格が下落し、1万2000円になったタイミングで買い戻すという戦略です。しかし、この手法には疑問が生じます。

なぜなら、当初1万円で保有していた資産だからです。1万5000円までの上昇による5000円の利益を確定し、下落後の1万2000円で買い戻す場合、元の平均取得単価が1万円であったため、保有数量は必然的に減少します。

ここで重要な疑問が生じます。1万2000円で買い戻す理由は何でしょうか。価格上昇を期待しているからに他なりません。しかし、価格が上昇しなかった場合は意味がありませんし、仮に上昇したとしても、1万円で継続保有していた方がトータルリターンで優位である可能性がありますつまり「売却しない方が良かった」という結果になる可能性があるのです。

この手法が成功するためには、1万2000円が底値となり、そこから上昇に転じて下落分の3000円を回復し、さらに利益を獲得できることが条件となります。しかし、株式投資の経験者であれば理解できるように、このような理想的な取引を実現することは極めて困難です。

それならば元の平均取得単価を下回った時点で買い戻すという戦略はどうでしょうか。

ここでも重大な問題が生じます。平均取得単価を下回る価格が永続的に訪れない可能性があるのです。株価の長期的上昇を前提として投資を行っている以上、いずれは平均取得単価を下回らない状況が到来します。

これは投資教育を20年間行ってきた経験と実際のデータに基づく知見ですが、株式投資においてもこの現象は確認されており、外国為替証拠金取引(FX)においてはほぼ不可能な状況となります。外国為替は価格ではなく交換レートであるため、0円になることも無限大に上昇することもありません。つまり、どちらかの国家が破綻する状況でない限り、極端な変動は発生しないのです。

通常、FX取引を行う投資家はドル円やユーロドル、ユーロ円といった主要国通貨ペアを選択するため、国家破綻を前提とした取引は行いません。横ばい傾向を示すような通貨ペアであっても、最終的には買い戻し機会を失うリスクが存在します。

長期間の取引を継続すると、平均取得単価が継続的に下落しなければ利益を獲得できない状況に陥ります。よって平均取得単価を下回る機会が二度と訪れない可能性は十分にあります。

平均取得単価ではなく移動平均乖離率などの指標を活用する手法も考えられます。これでも通常の取引は可能で、実際にこのような手法を用いてトレードを行っている投資家も存在します。

しかし本質的に考察すると、購入時よりも価格が下落した際の買い戻しや、将来の上昇局面における損失回避を目的とした手法は、多くの場合において期待通りの結果を得ることができません。

短期取引においては異なる考え方とアプローチが必要となります。短期取引を行う投資家には独自の理論と手法があり、適切に利益を獲得していく方法論が確立されています。過去に短期取引の指導を行った経験から、これらの手法は確実に機能することを確認しています。

一方、長期投資家として価格上昇時に利益確定を行い、ある程度の価格下落後に再購入することができれば、利益分も含めて再投資が可能となります。これにより平均取得単価は上昇する可能性がありますが、保有数量や投資金額を増加させることができるという考え方は理にかなっています。

売った時が投資の始まり(8:33)

短期投資であろうと長期投資であろうと、長期間にわたる投資継続が前提であることは既に述べました。現在の保有資金が不十分であり、より大きな資産形成を目指して投資を継続し拡大していきたいと考えるのであれば、利益確定を行ったその日から手元に資金が存在することになります。

この資金を再投資しなければ資産は増加しません。つまり、いずれかの時点で再投資を行う必要があります。では、その再投資のタイミングをいつにするかということを明確にしていなければ、そもそも売却を行うことはできません。再投資戦略までを含めた計画がなければ売却は不可能なのです。

価格が上昇を続ける可能性もありますが、仮にその上昇分があるとしましょう。全世界投資において過去平均約7%の利回りを実現できていたとします。今後も同様の結果が得られると予測し、7%のトータルリターンが期待できると仮定します。これはインカムゲインではありませんが、年間で7%のリターンが安定的に得られるわけではないものの、そのような期待値で考えることができるとしましょう。

このような前提のもとで、現在20%の利益が発生しているとします。これは7%を大幅に上回る水準であるため、一度利益確定を行おうと考える場合、この売却後の投資再開において、3年以内に売却価格よりも安価で購入できなければ、売却しない方が良い結果となったということになります。

これは7%×3年分の機会損失を意味します。インカムゲインがある投資対象についても同様の考え方が適用されます。例えば7%のトータルリターンがある投資対象を売却した場合、キャピタルゲインもインカムゲインも放棄することになります。

20%の上昇後に売却した場合、7×3=21%、つまり21%のリターンは3年間保有し続けることで獲得できるという予測が成り立ちます。従って、3年間でその売却価格よりも安価で購入できなければ、投資判断として失敗したことになります。保有継続の方が資産増加につながったのです。

つまり、3年以内にその価格よりも安価で買い戻せる自信がなければ利益確定を行うことはできません。3年間という期間内での安価購入の実現は、結局のところ投資能力に依存します。

将来の投資に対する自信があるかどうかが重要です。将来のことですから期待通りにならない可能性もありますが、ギリギリ達成できる程度の見通しでは自信は生まれません。「確実にその状況は発生する」という自信がなければ、実行は困難でしょう。

これが可能であれば、おそらく長期投資から中短期投資へと移行していく可能性があります。なぜならば相場を読む能力があるからです。3年以内の下落を予測できるということは、相場分析能力があることを意味し、中長期的な相場観を持っているということになります。

この手法自体を否定するつもりはありません。しかし、これが実行可能かと問われた場合、多くの投資家は「そのような予測は不可能」と答えるでしょう。

その理由は、投資を開始したばかりの投資家には3年間の投資経験が不足しているからです。これは根拠のない自信となってしまいます。多くの場合、このような根拠のない判断では良い結果を得ることができません。

では、20年程度の投資経験がある場合はどうでしょうか。3年以内に必ず価格が下落すると断言できるかというと、よほど特殊な状況でない限り困難です。そのような特殊な状況は通常、金融ショック時に発生します。つまり、ショック発生前に売却していなければならなかったということになります。しかし、実際にはそのような売却は実行されていないことが多いのです。

新規資金による購入は可能です。これは問題ありません。しかし、売却と購入を繰り返すこと、つまりショック発生前の利益確定と再購入を継続的に実行するには、この活動を長期間継続するという前提がなければ不可能です。

利益確定はデメリットしかない(13:35)

結局言いたいのは、売った時が投資の始まりなのです。売った時が終わりではありません。1分1秒を争うように安く手に入れるタイミングを測らなければならないのです。それができて初めて「売却は正しかった」「投資で成功した」ということが言えます。

売却した時点では、その投資が成功したかどうかまだ決まっていないということです。そこからスタートです。

なぜかというと、投資の結果として現時点で持っているお金は過去でしかないからです。売っていなくても確定しています。

「利益確定」と言いますが、実は確定ではないのです。税金を払う可能性はあるかもしれませんが、NISA口座やiDeCoといった非課税口座でやったら意味がないので売っても売らなくても一緒です。ということは、すでに動かせない過去のことだから確定しています。

それを売った時には税金を払わなければいけません。だから私たちにとっては利益確定はデメリットしかないのです。

今あるものを売ってそこから安く手に入れるにあたって、それが何年後になるかは値上がりの幅やトータルリターン(インカムゲイン+キャピタルゲイン)で考えた時にどのくらいのリターンを求めているかによります。これは全ての投資で言えます。

たとえば不動産投資も値上がりして売ったとして、そのトータルリターンで何年分かは普通に測れるわけですから、それよりインカムゲインの多い不動産を購入できるかどうかということが重要です。

それは経験がない限りできません。経験だけでなく知識も必要ですし、色んな相場を知っていて、株式だけではなく不動産や事業など全部の知識を入れた上で適切に判断できるような人であれば可能かもしれません。

そういうものを放棄したとしても、全世界投資であれば7%の期待利回りがありますし、それ以外にもあります。4%でも5%でも構いません。GPIFのものであれば大体そのぐらいになります。リターンを計算した上で未来に安く購入できるかどうかが分からないとできないということなのです。

短期投資の人は別です。そちらにはそちらのルールがあって、またその方法論があるからです。しかし、長期投資をしている人間が利益確定するということは、経験があったり相場が読めたりしないとできないほど重い行為なのです。

投資は売った時が終わりではないのです。その後も続けていくのならば、売った時が始まりです投資をやめる時、売る時はいつなのかといえば、使う時です。

この感覚を持っているだけで、長期投資は結構心安らかに投資が続けていけるでしょう。

またこちらの動画「【出口戦略】4%ルールは本当に安全?老後資産を減らさないための取り崩し戦略【FIREも必見】」では、老後資産を取り崩す戦略について解説していますのでぜひご覧ください。