夫(妻)に先立たれた後の年金受給額は思っている以上に減る【共働き編】
この記事では、厚生年金や遺族年金の仕組みを基に、夫婦どちらかが先立った後の年金額のシミュレーションを行い、どのように老後資金を準備すべきかを考えます。安心して老後を迎えるための具体的な対策を一緒に見ていきましょう。
キーポイント
シミュレーションの3つの前提(00:01:26)
今回の動画で厚生年金と遺族年金の受け取り金額を考える際に、いくつかの前提条件があります。本シミュレーションでは、以下の前提に基づいて計算を行っています。
将来の年金受給額が減少する可能性は考慮していません。政府が発表しているシナリオでは、所得代替率が現在の約61.2%からどんどん下がる予想です。さらにマネーセンスカレッジでは37%にまで下がると考えていますが、今回はこのリスクを除外しています。
また、年金受給の開始年齢は65歳としています。これは現在の制度で多くの人が選んでいる年齢です。ただし、マネーセンスカレッジでは年金受給開始年齢はさらに下げて良いと考えています。
さらに、今回は遺族年金の計算において、遺族基礎年金ではなく、遺族厚生年金に焦点を当てています。遺族基礎年金は18歳未満の子供がいる家庭が対象となるため、今回のケースでは考慮していません。
5ステップで夫(妻)に先立たれた後の年金を考えよう(00:03:04)
夫婦のどちらかが亡くなった場合の年金は、5つのステップで考えていきます。
1.現在の年金受給額の確認をする
残された配偶者が受け取る年金額は大幅に減少することが考えられます。そのため、まずは現在の年金受給額を確認します。
今回は男女別の平均年金受給額で計算をします。厚生労働省「厚生年金保険・国民根金事業年報」(令和4年度)をもとにマネーセンスカレッジ独自に計算しました。
ご自分で計算する場合は、自分自身の年金受給額をもとにシミュレーションしてください。
2.遺族厚生年金の計算をする
遺族年金の仕組みは少し複雑です。基本的には以下の2つの計算方法から高いほうが遺族厚生年金として受け取ることができます。
- 亡くなった方の老齢厚生年金の4分の3
- 「自分の老齢厚生年金の2分の1」+「亡くなった方の老齢厚生年金の2分の1」を足し合わせた額
3.遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金の比較をする
「2」で選んだ遺族厚生年金と、自分が受給している老齢厚生年金を比較し、高いほうを受給することになります。もし遺族厚生年金のほうが高い場合は、自分の老齢厚生年金を超える部分だけが遺族厚生年金として支給されます。
4.遺された方の年金受給額を計算する
老齢年金は課税対象(手取り率77%で計算)になります。遺族年金は非課税(手取り率100%)です。
5.必要生活費を見出すか検討する
老齢年金と遺族年金を合わせた金額が現在の生活費の70%を確保できるか検討しましょう。なぜなら、生活費の70%を確保できなければ生活レベルを維持できないためです。
最低生活費として15万円が目安です。つまり、老齢年金と遺族年金を合わせて最低でも毎月15万円以上確保できるか検討しましょう。
足りない場合には生活レベルを維持するために老後資金の準備を始める必要があります。
会社員(夫)+会社員(妻)→会社員(夫)が死亡(00:12:56)
まず、夫が会社員で妻も会社員として働いているケースを考えます。夫が亡くなった場合、残された妻が受け取る年金額は大幅に減少します。
例として以下の条件で考えてみます。
この場合、妻はまず遺族厚生年金(ステップ2)として7.5万円(夫の老齢厚生年金10万円の4分の3)を受け取ることができます。
次にステップ3です。妻自身の老齢厚生年金3.8万円と遺族厚生年金7.5万円を比較し、高い方を受給します。ただし、自分の老齢厚生年金を超える部分(3.7万円)が遺族厚生年金として支給されます。
ステップ4として、遺されたほうの年金受給額を計算します。
老齢基礎年金(課税)6.5万円+老齢厚生年金(課税)3.8万円+遺族厚生年金(非課税)3.7万円=14.0万円
先ほどの計算は課税と非課税が混ざっているので、実際の手取り金額を計算すると、11.6万円(=6.5万円+3.8万円)×77%+3.7万円)となります。
最後に必要生活費を満たすか検討します。夫婦2人だと手取り合計20.6万円でしたが、夫が亡くなった場合には11.6万円(56.3%にダウン)まで減少します。
上記は平均年金受給額で計算しましたが、あなた自身の受給額で計算してください。その場合にあなたの現在の生活費の70%を確保できているでしょうか。最低生活費の15万円には3.4万円不足しています。
手取り額になると生活費をまかなうには不足が生じることがわかります。
会社員(夫)+会社員(妻)→会社員(妻)が死亡(00:24:47)
次に、妻が亡くなった場合を考えます。このケースでも、残された夫の年金受給額は大幅に減少します。
計算方法は前項の「会社員(夫)+会社員(妻)→会社員(夫)が死亡」と流れは同じなので省略します。
計算の結果、妻の老齢基礎年金が6.5万円、老齢厚生年金が3.8万円と仮定すると、夫は遺族厚生年金として6.9万円を受け取ることができます。
しかし、夫自身の老齢厚生年金が10万円であるため、この場合も全体の手取り受給額が20.6万円から12.7万円に減少(61.7%にダウン)し、最低生活費の確保が難しくなります。
100歳までの不足金額を計算する(00:28:15)
シミュレーションの結果から、100歳までの生活を支えるためには、かなりの資金が必要であることがわかります。共働きで十分な収入があったとしても、一方が亡くなった後の生活費を維持するためには、年間約3.4万円前後の不足が生じる可能性があります。
さらに、マネーセンスカレッジでは2人暮らしの平均の生活費は手取り26.5万円だと考えています。夫婦2人ご健在でも年金は20.6万円しかもらえないので、平均の生活を送るためには資産から毎月約6.0万円の取り崩しが必要です。
毎月6万円の取り崩しが可能であれば、「会社員(夫)のみ」となった場合でも手取り18.7万円。平均的な生活を過ごすことができます。
ただし、毎月6万円を65歳から100歳まで35年間取り崩すには2,520万円必要です。加えて、介護費や医療費も考えと、約2,500〜3,000万円は65歳までに準備しておかなければなりません。
この不足額を補うためには、事前に老後資金をしっかりと貯めておき、必要に応じて取り崩しを行う計画を立てることが重要です。たとえば、65歳時点で年金の繰り下げ受給を選び、年金額を増やすことで、長寿リスクに備えることも効果的です。
まとめ (00:30:15)
今回のシミュレーションから、夫婦の一方が亡くなった後の年金受給額の大幅な減少が、生活費に大きな影響を与えることが明らかになりました。特に共働き世帯では、遺族年金が期待よりも少ない場合が多く、老後資金の不足が深刻な問題になる可能性があります。
事前に老後の資産設計をしっかりと行い、万が一に備えて年金の繰り下げ受給や貯蓄の計画を立てることが重要です。今後の生活設計において、これらのシミュレーション結果を参考に、より現実的な対策を実施していきましょう。
さらに、昭和世代に多い「会社員+専業主婦(夫)で一方が死亡した場合の年金額」というのも知りたい内容だと思います。この内容については「昭和生まれは必見!夫(妻)の死後、年金額は思っている以上に減る【会社員+専業主婦(夫)編】」で解説しているので、本記事と併せてぜひチェックしてください。