もう老後のために働かない。今の生活を100%楽しむならこの金額になれば積立やめてOK
積立投資にはゴールがあるという考え方が最近広まっています。ある一定の金額まで資産が積み上がれば、それ以降は積み立て投資をしなくてもよいというものです。考え方としては非常に理にかなっており、老後までを見据えてすべて計算した上で、この年齢までにこの金額を用意できていれば、あとは自然と増えていくという発想です。
今回はその考え方を試算しながら解説しつつ、気になる点についても掘り下げていきます。
老後資金がいくら必要か計算する(1:31)
積み立てをやめてよい状態とは、老後資金がある程度確保できている状態を指します。そのためには、まず老後にいくら必要なのかを把握することが欠かせません。たとえば65歳から年金を受け取ることを前提とするならば、65歳時点でいくら必要かを最初に計算した上で、運用込みで何年前にいくら準備できていればよいかを逆算することができます。
積み立てをやめて資産運用に切り替えることで、老後のための積み立てをしない代わりに今を楽しむ、あるいは収入を多少減らしても構わないという選択肢が生まれます。今の生活費は今の労働収入でまかない、趣味や旅行などに使いながら、老後の資金はすでに手当てが済んでいるので心配いらないという状態を目指すわけです。
65歳までに老後資金の土台を作るにはいくら必要?(2:37)
試算の条件として、想定利回りは年5%を使用します。全世界への分散投資であれば年7%程度が期待できますが、インフレなどを考慮して2%を引いた5%で計算します。目標金額は老後資金の目安としてよく挙げられる3,000万円と5,000万円の2パターンとし、年金は考慮しません。NISAやiDeCoの非課税枠を活用することを前提としています。
この条件で計算すると、40歳時点では運用期間が25年あるため、3,000万円を目指す場合は886万円、5,000万円を目指す場合は1,477万円が今の時点で必要な金額です。45歳では運用期間が20年となり、それぞれ1,131万円と1,884万円。50歳では15年間で1,443万円と2,405万円。55歳では10年間で1,842万円と3,070万円。60歳では残り5年のため、2,351万円と3,918万円という数字になります。
これはいわゆる「コーストFIRE」と呼ばれる考え方に近いものです。現役世代の生活費は労働収入でまかない、仕事は継続しながら、老後資金のための積み立ては行わないというスタイルです。ミニマルな生活を選ぶことで高収入でなくても好きな仕事をこなしながら生活したり、好きな仕事へ転職して時短勤務を選んだりと、選択肢が広がります。
実はこれはマネーセンスカレッジが以前から伝えてきた老後資産設計の考え方と本質的に同じです。違いとしては、若いうちに一気に貯め切ってしまうのがコーストFIREであり、無理なく薄く長く続けていくのがマネーセンスカレッジの提案するアプローチです。老後の生活を安定させ、自分が想定する豊かさを手に入れる手段が確保できていれば、今も楽しめるという考え方はまったく同じです。
言いたいこと(9:43)
ただ、気になる点がいくつかあります。まず投資には不確定要素が伴います。過去23年間にわたって年7%程度の利回りを実現してきた実績があるとはいえ、それが将来を保証するものではありません。たとえば65歳時点で3,000万円あるいは5,000万円を達成できたとして、その直後にリーマンショック級の暴落が起きたらどうでしょうか。全世界株式への投資であれば最大で約3分の1程度の目減りが想定されます。
株式で運用しなければこれだけの利回りは期待できませんが、株式への投資比率が高い以上、大きな下落は避けられません。そう考えると、目標金額の1.5倍程度は用意しておきたいところです。
1.5倍で考え直すと、40歳時点で3,000万円を目指す場合は約1,300万円、5,000万円なら約2,000万円が必要になります。これはかなりの努力を要する金額です。50歳時点でも2,000万円から3,500万円程度が必要となり、むしろそれだけ用意できていれば老後の2,000万円問題などとうに解決していることになります。そのくらいの水準を目指すのであれば、ゴールを早めに設定して一気に貯め切るよりも、60歳や65歳まで積み立てを続けながら毎月の金額を少なく抑える方が、よほど柔軟で心穏やかに対応できます。
もう一点、40歳でコーストFIREを達成したとしても、その後に投資がうまくいかなかったり、想定外のライフイベントが発生したりすれば、45歳で再就職を余儀なくされるケースも考えられます。その心理的な不安は決して小さくありません。また、専門家のサポートがない状態で長期の資産運用を安定させることが果たしてできるか、という点も慎重に考える必要があります。
そして最も引っかかるのは、コーストFIREを目指すにしても、結局は老後を楽しむために今を犠牲にしているという構造と変わらないのではないかという点です。一般的な資産形成よりも前倒しでやろうとする以上、何かを犠牲にしているはずです。もしその犠牲が本当に納得のいくものなら問題ありません。
しかしそうでないなら、その必要があるのかを改めて考えてほしいのです。年次有給休暇は法律上1年間で最大20日間与えられており、取得する時期は原則として労働者が決められます。旅行や趣味を楽しむための休みは、準備と環境づくり次第で今からでも十分に確保できるはずです。今を楽しむためにコーストFIREが必要というわけではなく、積み立てを薄く長く続けながらでも今の生活を充実させることはできます。
まとめると、コーストFIREの考え方自体は否定するものではありません。ただし、暴落リスクを踏まえたバッファとして目標金額の1.5倍程度は見ておくべきですし、その後も使えるほど堅牢な投資戦略を持つことが不可欠です。そこまで考えるのであれば、無理に貯め切ろうとするよりも、収入の10〜25%程度を年代に応じて積み立て続ける方法の方が、ストレスが少なく長続きします。
大切なのは自分自身の老後資産設計をしっかり行い、変化に対応できる余力を残しながら、今という時間も同時に楽しんでいくことです。
またこちらの動画「老後の不足額は月9.2万円?年金が減る前に知っておきたい2000万円問題の真実」では、2025年版家計調査と年金財政検証をもとに老後不足額を解説していますのでぜひご覧ください。





