「緊急提言!国債で減税していいのか?」への感想

中田敦彦氏が消費税減税を国債発行で行うのは不正解だとして、法人税で行うべきだという主張の動画を投稿し、大きな反響を呼んでいます。

この動画を受けて、高須幹弥氏のコメント動画も含めて視聴した上で、見解を述べたいと思います。

マネーセンスの立場も踏まえた上での結論(1:04)

結論から述べると、中田氏の主張に概ね賛成です。方向性としてはその通りだと考えますただし、1時間にも及ぶ動画で説明されている論理のエビデンスに関しては違和感があります。高須氏とも立場的には同じです。同じ経営者として、人を雇用する立場から共感できる部分が多くありました。

中田氏の主張「アベノミクスの総括」(2:04)

中田氏の主張の基本となっているのは、アベノミクスとMMTの批判です。アベノミクスは金利を下げて円安誘導し、大企業の収益を拡大させる戦略でした。円安により輸出企業が利益を拡大し、消費税還付も増加することで、さらなる利益拡大を目指していました。

この背景には、日本がデフレから脱却し、国際競争力を高める必要があったことがあります。製造業が儲かることで、その裾野の広い関連会社や下請け企業にも仕事が増え、トリクルダウン効果により賃金が上昇し、国民が豊かになるというのが自民党の構想でした。

しかし、結果として賃金はそれほど上がっていません。確かに名目賃金は上昇していますが、インフレ率を考慮した実質賃金で見ると、去年に対してマイナス2.3%程度で、可処分所得は減少しています。インフレは起こったものの、給料の上昇がそれに追いついていないため、生活が苦しくなっているのが現状です。

中田氏はこの原因を「内部留保」だと指摘していますが、これは結果であって、内部留保が起こる理由の説明にはなっていません。そこで、消費税を下げることでインフレ率を下げ、可処分所得を増加させようという提案をしています。

中田氏の主張では、消費税減税を国債発行で行うことはできないとしており、その理由として金利が上げられないことを挙げています。しかし、このエビデンスについては反対の立場です。そうではないと考えます。

また中田氏は、国債発行ではなく法人税増税で消費税を減税すべきだと主張しています。法人税増税で消費税減税を行う理由は、企業が内部留保してしまっているなら、儲かっている法人から強制的に国がお金を徴収し、そのお金を基に消費税を下げることでインフレを抑制し、相対的に国民の可処分所得を増加させるというものです。

消費税と法人税は実際にはセットになっています。法人税が下がる一方で消費税が上がってきた歴史があります。消費税が全くなかった時代は法人税が高く、現在は個人所得税、法人税、消費税がそれぞれ約3分の1ずつの比率となっています。消費税が増えてきているのなら、消費税を下げるというのは当然の考え方です。

国家財政的に財源がないという意見もありますが、バランス感覚としてはそれでも問題ないと考えます。理想としては持続可能な経済成長と生活向上であり、そのためには可処分所得の増大が必要です。

企業を儲けさせることは間違いなく必要ですが、企業が儲けを従業員に還元できれば、消費が拡大し、良いインフレ(ディマンドプルインフレ)が起こります。

企業が内部留保する理由は「解雇規制」(15:04)

内部留保が起こる理由の一つとして、雇用法制、つまり解雇規制があります。日本とアメリカでは雇用制度が大きく異なります。日本型雇用は総合職制度で、会社に雇用されても配置転換により様々な部署で働く可能性があります。一方、アメリカなどの諸外国はジョブ型で、プログラマーとして雇われればプログラムのみ、経理なら経理のみを担当します。

総合職制度では解雇が困難です。新事業が失敗して人員が不要になっても、他部署への配置転換が可能なため、早期退職募集などの手順を踏まなければなりません。大企業にはかなり厳しい解雇規制が適用されています。

ジョブ型への移行が議論されていますが、日本の風土や文化との折り合いをつけながら進める必要があります。外資系企業がジョブ型で雇用し、解雇も行えるのは、最初からジョブ型で雇用契約を結んでいるからです。

ジョブ型に移行すると、スキルアップは自己責任となり、職の安定性は失われます。しかし、人口減少と外国人労働者の受け入れを考えると、総合職制度は一般的ではないため、ジョブ型の方が適用しやすいかもしれません。

経営者の立場から考えると、職の安定性はある程度残しておいた方が日本の文化に合っています。ただし、内部留保を抑制するためには、現在よりも解雇規制を緩和する必要があります。完全にアメリカ型のレイオフが横行するのは適切ではなく、中庸を目指すべきです。

企業が内部留保する理由「失われた30年」(20:40)

内部留保のもう一つの理由は、会社を潰さないための最後の砦という側面があることですコロナ禍や失われた30年で企業は体力を消耗しており、2~3年儲かったからといってすぐに労働者に還元するのは困難な状況です。30年間の負債がある中で、バランス感覚が重要だと考えます。

中田氏の主張「金利が上げられない」(21:16)

中田氏の言う金利が上げられないという結果については同感です。ただし、政府債務残高の対GDP比が上がっているから上げられないという主張は違うのではないでしょうか。日銀もその理由を挙げていませんし、これがあるからといって上げられないわけでもありません。

金利を上げられない理由は、持続可能なインフレかどうかという点にあります現在のインフレはコストプッシュ型で、その原因は円安やエネルギー価格上昇にあります。国民民主党が提案するガソリン税減税や基礎控除の引き上げなどは、国債発行しても需要を大きく刺激するものではありません。

基礎控除について考えてみると、最低限の生活に必要なお金は生活保護費から推測できます。単身者で月12万円程度、首都圏で13万円程度です。社会保障費も考慮すると月15万円は必要で、年間180万円となります。国民民主党が主張する178万円という数字は決して言いすぎではなく、国民が生活するために絶対に必要なお金です。

これは国債発行の可否に関係なく、国民の最低限の生活に必要な金額なので、国債であろうが何であろうが最初に実施すべき政策です。

日銀が言っているのは、ディマンドプル型のインフレが過熱している状況であれば金利を上げるということでしょう。現在のインフレ率は3.6%程度ですが、エネルギーと食料品を除くと1.6%程度で、日銀の目標である2%に近い水準です。2.5%程度まで上がってくれば、アメリカと同様に金利は上昇するでしょう。

金利を上げると、負債を抱えている国民には負担が増加し、住宅ローンの変動金利を利用している方にはダメージがあります。企業にも抑制効果があります。金利をゆっくり上げていくことには賛成ですが、現在上げられない理由は債務残高ではないと考えます。

速効性を考えれば、法人税増税して消費税を減税する、または所得税を減税するという方法が適切でしょう。

中田氏の主張「国債発行反対」(26:19)

中田氏は金利が上げられない理由を国債の発行残高だとして、これ以上国債を発行すべきでないという立場を取っています。しかし、国家財政は最初に国債発行から始まります。予算を執行する際にまず国債を発行し、その後税収で返済するのが基本的な流れです。最初が税収ではありません。

予測の精度が低ければ精度を高めればよいのであって、国債発行して消費税減税を行い、その後法人税を増税して国債を償還するという方向性の方が正しいと考えます。国の運営としても、速効性としても、まず消費税減税を実施してから法人税増税を行う順序が適切です

国債発行反対論は、自民党が掲げるプライマリーバランス政策と同じ考え方のようです。プライマリーバランス0、つまり税収と支出を同じにするまでは国債を発行してはいけないという考えですが、これは不要だと思います。

プライマリーバランス0は家計運営とは異なります。家計は収入から支出を決めますが、国家運営は歳出から決まります。歳出があって、その年の歳入があり、足りない分が国債発行になるだけです。家計とは構造が違うため、プライマリーバランス0にこだわる必要はありません。

国は今必要だと判断するならば支出しなければならない立場にあります。コロナ禍では国債発行できないと言いながらも100兆円もの国債を発行しました。その結果、債務残高は200兆円を超えましたが、何が悪いのでしょうか。その時に支出しなかったら国民の生命が危険にさらされていたのです。

今を乗り切るために支出しなければならない状況では、国債発行は必要です。健全化を目指すなら、経済成長率に見合う速度以下の国債発行比率であれば問題ないでしょう。GDPが増えた分だけは国債発行しても良いのではないでしょうか。

ただし、GDP比という指標には問題もあります。GDPは政府が直接コントロールできる数字ではないため、KPIとしては適切ではないかもしれません。別の指標を考える必要があるでしょう。

中田氏の主張「金融所得課税」(31:09)

高須氏も指摘していた金融所得課税30%について、国民民主党が提案して批判を受けましたが、これは少し違います。1億円の壁があるなら、1億円以上累進課税にすれば良いのですまたは、その層だけに10%の社会保障税を上乗せするという方法もあります。

税率を一律にしたいなら、どちらの方法でも諸外国で既に実施されていることなので実現可能です。1億円以上稼いでいる金融所得は大抵、大企業のオーナーなどの収入でしょう。中小企業の事業承継などに影響がある場合は、別の政策で法人税を減税すれば対応できます。

まとめ(32:03)

中田氏は歴史や社会については詳しいかもしれませんが、経済に関しては論拠に違和感を感じます。ただし、結論としては非常に正しいと思います。

しかし、中田氏はシンガポールに移住した方で、ポジショントークではないかという疑問があります。法人税を上げると言っても、海外在住なので関係ないという立場です。国内に残って税金を払った上でこうした発言をするのが適切だと考えます。

このような議論は非常に良いことだと思います。中田氏が間違っているからダメということではなく、エビデンスが違うなら知識を蓄積していけば良いのです。こうした流れはSNSやYouTubeの存在意義として素晴らしいものです。

一つの動画に対して意見を求められることはあまりありませんが、今回は非常に良い流れだと感じたため動画を作成しました。あくまで個人的な意見として参考にしていただければ幸いです。

またこちらの動画「NISAつみたて投資枠の選択肢拡大!?広がる投資対象のメリットとリスク」では、NISAのつみたて投資枠で投資できる対象が広がる可能性があるニュースについても解説していますので、ぜひご覧ください。