食料品の消費税ゼロは「いいことづくめ」ではない
選挙で食料品の消費税率0%が掲げられていますが、一見良いことのように思えるこの政策には、実は大きな落とし穴が潜んでいます。選挙期間が非常に短かったため、この問題点が有権者に十分に届けられていないのではないかと考えられます。
消費税の仕組みは複雑で理解しづらい部分もありますが、投票行動の参考になるよう、この問題について詳しく見ていきます。
各党の選挙公約(0:53)
各党の選挙公約を見てみると、蓋を開けてみれば多くの政党が減税を主張しています。 差が生まれるとすれば財源の問題や規模感といったところでしょう。
自民党と維新は、飲食料品の消費税を2年間0%にすることを検討するとしています。規模としては年間約5兆円、2年間で計10兆円となります。
中道改革連合は恒久的に0%にする方針で、政府系ファンドなどを活用するとしています。こちらは年間5兆円がずっとマイナスになる形です。
国民民主党、共産党、れいわ新選組は、消費税を5%に引き下げる公約を掲げています。れいわは直ちに廃止したいとしつつ、最低でも5%にするとしており、共産党も直ちに5%にして後に廃止していくという違いはありますが、基本的に5%という目標で一致しています。財源としては、法人税の税負担や外為特会、ETFの売却などが挙げられています。5%に引き下げた場合は年間15兆円、廃止の場合は31兆円が必要となります。
参政党、減税日本・ゆうこく連合、社民党は消費税自体を廃止する方向です。これには31兆円の財源が必要となります。保守党は食料品を0%にするとしており、中道と同様の方針です。みらいは消費税を維持するとしていますが、この主張では支持を得るのは難しいかもしれません。
食料品消費税0%の「見えない罠」(3:24)
消費税0%になれば、スーパーで購入した場合、これまで1080円だったものが1000円になり、確かにお財布に優しくなります。一方、飲食店で食べる場合は消費税10%のままなので1100円かかるという違いが生まれます。多くの方はこの表面的な違いだけを見ているのではないでしょうか。
しかし、経営者の立場から見ると、そう単純な話ではありません。消費税は、お客様から預かった消費税と自分が支払った消費税を差し引いて、残りを納税する仕組みになっています。
これまでは農家であれば、肥料代などの仕入れにかかった消費税を差し引いて、残った分を納税していました。計算方法としては、お客様から預かる消費税が100円、仕入れで使った消費税が30円であれば、差額の70円を納税するという形です。
ところが食料品が0%になった場合、農家は食料品を売っても消費税をもらえないのに、肥料代として支払った消費税は負担しなければなりません。 例えば30円の消費税を肥料代として負担していた場合、この消費税負担分を価格転嫁せざるを得なくなります。つまり、300円だったものを330円に値上げするという動きが出てくるのです。10%の値上げとなり、インフレを招く結果になります。
これを仕入れた飲食店は、本来300円で買えていたものが330円に値上がりします。消費税が10%や8%だった時代には値上がりしなかったものが、値上がってしまうわけです。30円のコスト増ですが、お客様からもらう消費税は10%かかっています。しかし食料品に関しては消費税0%なので、仕入税額控除ができません。結果として100円まるまる納税しなければならず、納税負担としては30円コストが上がることになります。
さらに、仕入れ値が上がっている分、原価率も上昇します。30円分の野菜の値上がりと合わせて60円のマイナスというダブルパンチが起こってしまうのです。飲食店にとってはかなりのダメージとなるでしょう。コロナを乗り越えて飲食店はだいぶ回復してきたものの、まだまだ厳しい状況の店舗も多くあります。そんな中でこの政策が導入されると、飲食店には大きな打撃となります。
このように経済に歪みが生じてしまうことが、まず1つの大きな問題です。
食料品0%減税で「還付金」が出る仕組み(6:28)
さらに問題なのが、還付金が出る仕組みがあることです。通常、食料品が10%や8%の場合、消費者からの消費税が1000万円入ってきて、仕入れとしての消費税が700万円であれば、300万円を納付すればよいというのが消費税の仕組みです。仕入れや経費として支払った分のうち、消費税がかかっているものについては、お客様からの売上の消費税から差し引けるのです。
ところが食料品0%の場合、食料品を主な生業としている事業者は、お客様から消費税をもらっていません。 0%だからです。しかし仕入れ先への消費税は負担しています。食料品の仕入れは確かに0%でよいのですが、それ以外に物流コストや電気代、設備投資など、様々なコストがかかります。その分は負担しているため、計上できるのです。すると、この例で言えばマイナスになってしまいます。これは還付を受けられるのです。つまり、お金がもらえることになります。
食料品を扱っている会社、特に大企業がこの恩恵を受けることになります。経営者の立場で考えれば、自民党や維新が主張する2年間という期限付きの政策であれば、該当する食料品の販売業者はこの2年間で設備投資を集中的に行うでしょう。還付が受けられるのですから、どうせしなければならない投資を前倒しするだけで、余計なコストはかけずに済みます。2年間に集中させることで、売上によらず間違いなく還付金を受け取れるのです。
大きい企業であればあるほど得になります。特に食料品関連の企業は有利です。自民党は大企業に有利な政策を取る傾向があり、維新もその政策に乗っかっているわけですから、当然そうなります。結局、食料品だけを0%にするというのは、一般の消費者にとっては聞こえが良いかもしれませんが、経済にかなりの影響を与え、歪みをもたらしてしまいます。そして大企業有利な構造になってしまうのです。
中小企業に関しては、そう簡単に設備投資を増やすことはできません。借金でやらなければならず、金利も高い状況です。2年間しかない期限付きの政策であれば、なかなか難しいと考えられます。
実際、経済学者の88%が、この政策は経済にマイナスだと述べています。
まとめ(9:10)
このように消費税は経済に歪みを与えてしまいます。一律であれば何も問題はないのです。実際、財源としては3倍程度必要になりますが、物価対策というのであれば、一律の方が有利でしょう。国民民主党の政策は現実的です。財源に関しても現実的と言えます。また共産党やれいわに関しては法人税を財源としていますが、富裕層向けであれば特に問題はないでしょう。ミニマムタックスなどの施策を行えば、年間15兆円程度は賄えるのではないかと考えられます。
ここが大きな違いです。消費税、特に食料品を下げれば助かると考える人は多いでしょう。現状、足元では大体3%程度の物価上昇があり、総合では1.5%、1.4%、1.3%程度と発表されていますが、それでもやはり食料費に関しては高いという状況で、ダメージはあります。しかし、それを安易に政策で対応してしまうと、特に問題が生じる可能性があります。
自民党と維新は議論を進めるという意味で言っているため、決まっているわけではありません。しかし中道改革連合に関しては、すぐに実行しそうな勢いです。秋から始めるという話もあり、永久的にそれを行うというのは、構造的に相当なダメージが起こりかねません。特に飲食店は中道改革連合に投票してしまうと、間違いなく厳しい状況に陥るでしょう。
こういった見えにくい部分、消費税の仕組みが分からないという方もいらっしゃいます。今回は消費税の問題だけに焦点を当てて詳しく説明しましたので、ぜひ参考にしてください。この政策には問題があると考えられます。
消費税については、10%と8%の軽減税率があるよりも、10%に統一してくれた方が良いと考えています。インボイスも不要になり、歪みが起きないからです。5%に引き下げるのであれば、物価が高くなっている中で国民の手取り収入が増えていない状況を考えると、この政策はありだと思います。どのような結果が出るか、投票行動に影響するのではないでしょうか。
個人的には、国民民主党の主張が分かりやすくて良いのではないかと考えています。皆さんはどのようにお考えでしょうか。この考え方も含めて、投票や政策の考え方の参考にしていただければと思います。
またこちらの動画「どうしたら選挙で政治家を正しく選べるの?」では、投資家目線で政治家を見極めるポイントを解説していますのでぜひご覧ください。





