金融所得を政府が把握したい真の目的は「給付付き税額控除」の実現
先日公開した動画では、金融所得を把握して後期高齢者医療制度の保険料や国民健康保険料に反映させ、負担できる人に負担していただくという目的を説明しました。
しかし、政府が本当にやりたいことは、その先にあります。
政府が金融所得を把握したい真の目的とは(2:15)
政府が金融所得を把握したい真の目的、それは「給付付き税額控除」の実現です。この言葉は最近急に出てきたように思われるかもしれませんが、実はずっと前から議論されてきました。国民民主党や自民党のマニフェストにも入っています。
税の目的とは(3:09)
税の目的は3つあります。1つ目はインフラや公共サービスの提供、2つ目は所得の再分配による格差の是正、3つ目は景気の調整です。
この中で日本が構造的な問題として抱えているのが格差です。格差が是正されないから、社会保険料の負担増に対して増税だと批判が出るわけです。根本的に格差の是正がされてこなかったことが問題なのです。
なぜ「給付付き税額控除」が今注目されているのか(4:50)
政府はインフレ対策として現金給付や消費税の軽減税率などを実施してきました。しかし、現金給付は所得に関わらず全国民に配るため財政的に非効率で、事務負担も重いという課題があります。消費税の軽減税率も、最終的に消費者にどこまで届くのか不透明で、低所得者支援として本当に貢献するのか疑わしいという指摘があります。
最大の問題は、低所得で働いている人のセーフティーネットが非常に薄いということです。これまでの再配分は主に住民税非課税世帯、つまり高齢者が中心でした。一方で、就職氷河期世代からずっとデフレが続き、スキルアップもできずに給与水準が上がらない人たちがいます。ギグワーカーやフリーランス、非正規雇用で手取り200万円や300万円程度では生活が厳しい状況です。
しかもこの人たちには従来の政策は響いていません。社会保険料の負担は大きく、消費税も10%かかります。一律の施策だけでは格差や貧困は減らせないのです。
今までの格差是正の方法論とは(10:31)
一律バラマキや減税では格差が是正されないため、所得制限を入れると年末調整が複雑になり、岸田減税のように時間がかかって地方自治体の負担も増大します。コロナ給付の時も受け取るまでに時間がかかり、非効率でした。
そこで、最終的な所得のところで税金をかける時に給付もしてしまおうというのが給付付き税額控除の考え方です。税額控除で税金を引いていき、税金がゼロになったらマイナスまで認めて給付するのです。手元に入ってくる時に全部調整されるため、収入150万円以下の低所得者でも給付を受けることで200万円や300万円といった一定の金額まで所得を増やすことができます。働いている人たちにも支援が届くようになるのです。
金融資産はどう把握する?(13:17)
しかし、ここでもまだ問題があります。それは金融資産がある人をどうするのかということです。見かけ上は給与所得などがないから少なく見えてしまい、その人にも給付が行ってしまうのではないかという問題です。
例えば年金生活者で確定申告すれば給付を受けられるけれども、金融資産をたくさん持っている人がいます。これは不公平感がありますし、中立的でもありません。そこで問題になってくるのが金融資産の把握です。
実は政府はすでにある程度把握しています。例えば預金や銀行からの利子所得は源泉徴収されていて、法定調書があります。NISAといった非課税投資枠も計算するために国税庁がデータベースを持っています。また特定口座については、今まではデータベースがなかったのですが、法定調書からデータベースを作って社会保険料に反映させようという流れになりました。
iDeCoや企業型確定拠出年金については把握できていませんが、そもそもこれは年金でもらうものですし、退職所得として関係ないという形になります。年金としてもらえば雑所得として入ってくるので、所得に反映されます。このように、基本的には負担能力として把握できるようになるのです。
ただ問題は負債です。考えるべきは総資産ではなく純資産であるべきです。若い人が住宅を買えば4000万円や5000万円の資産があっても、負債として3000万円や4000万円があれば、差し引きすると非常に低い金額になります。一方で高齢者は金融資産として持っていて、これは純資産に近いものです。
そこで、資産の把握ではなく金融所得でイコールにしてしまおうというのが今回の流れです。一定の日の資産を把握しようとすると、売却して現金にしておくなどの回避策も出てきますが、金融所得で考えると売却すれば当然税金がかかりますから、その時点で所得は上がるので反映できます。NISA口座で取っている分には低く抑えられるかもしれませんが、最終的に特定口座などを引き出そうと思えば、増えていれば絶対に金融所得はかかります。
当然、歪みは出ます。例えば負債を持っていて金融資産も持っている人、つまり借入で運用している人もいます。住宅ローンを安い金利で借りていて一括返済できるけれども、金融資産としても持っているという状態になると、金融資産からの収入は大きくなりますが、負債は反映されていません。しかし、それが損なのであれば別の方法を考えればいいわけです。新しい制度ですから当然そこには歪みが出てきたり穴が出てくるかもしれませんが、それでも現状よりマシだろうというのが実務的な考え方です。
所得はどう把握する?(17:13)
では、所得はどうやって把握するのでしょうか。金融所得は分離課税としてありますが、今までの給与所得などはどうやって把握しているのかというと、実はデータベースがすでにあります。地方自治体は住民税を課税するために住民の所得をほぼ100%把握しているのです。
ただし、地方自治体はバラバラでデータベースが1つになっていません。これをまとめてガバメントクラウドという考え方で1つのデータベースに入れてしまえば、全国民の所得は把握できるようになります。
しかし問題があります。地方自治体は住民税を課すのに前年所得を使っているのです。つまり前年所得でしか計算にならないため、今年急に貧困になってしまったという人を保護できないという問題があります。だから岸田減税も時間がかかったのです。
そこで、もっと良くするための方法があるのではないかと言われています。方法論としては、1年から長くても2年あればデータベースの統合はできると思われます。この技術というのはテクノロジーの話ではなく、手続きの話です。
なぜ実現しなかったのか(19:24)
この給付付き税額控除が唯一無二の方法とは思いませんが、少なくとも今よりマシで、届かない人に届くのではないかということで注目されているわけです。では、なぜ今まで実現できなかったのでしょうか。
実はG7のうち日本だけがこの制度を持っていません。他の6カ国は何かしら似たような制度が導入されている状態です。日本だけないのは、まず未だに手作業だということです。確定申告もそうですし、Excelで書いてもPDFで書いても、結局手で書いているわけですから真のデジタルとは言えません。
もう1つは多くの省庁にまたがってしまうということです。税であれば財務省ですが、社会保障も関係してくるので厚生労働省、住民情報として所得を把握するのは総務省や自治体、マイナンバーシステムになればデジタル庁と、いろんな省庁にまたがります。どこもリーダーを取りたくないし、どこが責任を取るのかという問題があります。やったところで何の利権もないので、全員が本気で動かなかったのです。
しかし、高市首相が出てきてリーダーシップを発揮し、政権が責任を取るということになれば進むでしょう。やれと言われたらやるしかないからです。責任の所在がなかったことが大きなブレーキでした。強いリーダーシップを持って各省庁をまとめて進んでいく人がいなかったのです。
加えて、DXが進んでいないとかデータベースがないといった問題もあります。だから今、急いでやろうとしています。金融所得、特に特定口座の金融所得をデータベース化しようというのが前回の動画の内容でした。
どうせデータベース化するのだったら格差も是正しようというのが今回の流れです。複数のデータベースを作るのは非効率なので、もっと上に上げてまとめてやりましょうということです。このガバメントクラウドというのは、他の国々では納税者番号などで一元化されているので、コロナ禍ではアメリカもイギリスもすぐに給付できました。日本は持っていなかったので時間がかかったのです。
最終的な所得で調整する(22:41)
給付付き税額控除は最終的な所得で調整したいということです。それをするためには所得の把握が必要ですが、これは把握できます。地方自治体のデータベースを統一して1つにします。ただし前年所得です。
前年所得から当年所得に変えるのにはまた時間がかかるかもしれませんが、少なくとも前年所得に対してリーチできるので、まずはスタートするということになるのでしょう。所得は反映できるけれども、金融資産が分からないので、これは金融所得でやりましょうということです。
金融所得の把握は結構進んでいるので、今足りないのは特定口座です。特定口座のデータベースを作って、そのデータベースもくっつければ、国民全体の所得は把握できるようになります。金融資産からの収入も含めた所得で考えると、これは公平性がありますね。収入が少なくて金融資産がたくさんあって、それで生活している人には、相対的に給付は少なくなります。
お金を持っている人はそれ以上に使うでしょうから、そこから配当や利子の収入が入ってきます。運用する側から見れば、最初に取り崩したいのは特定口座なのです。やはり税金がかかっていくし、これから増えていくものの税金を抑えたいということなら、最初に税金がかかるものから使っていくのが筋です。そうすると当然把握にも出てくるし、所得にも反映されるでしょう。
そこまでいくと不公平感はなくなります。今まで通り生活保護などは続けるし、住民税非課税世帯で金融所得がない人にも届きます。今まで補足できなかった低所得労働者、働いているけれども収入がない人に対してもリーチされます。
絶対必要なのはマイナンバーですが、今までは負担ばかりだったマイナンバーも、給付がもらえるとなったらみんな登録するでしょう。登録しないともらえないのですから、少なくともその恩恵がある人は登録します。これは非常にまともな政策ではないかということになります。
所得DBを作ることのメリット(25:02)
所得データベースを作る、ガバメントクラウドを作ることで何がいいのかというと、まず補足率の向上になります。もう1つはワンスオンリーです。これは1度政府に提出した情報は2度目の提出は不要ですということです。
例えば住所は毎回どんな書類にも書きます。所得もこっちで書いて、あっちでも書いてと色々書かなければいけません。もう政府に言っているのだから、それを1つのデータベースにまとめてしまえば、マイナンバーを提示さえすればこの人だと分かるわけです。そうすると手続きは非常に楽になります。
今回年末調整がすごく難しくなりましたが、全部のデータをすでに政府は持っているのですから、そのデータベースを全部入れてマイナポータルの中に突っ込めば、全部出来上がった状態で見ることができるのです。自分で書く必要はありません。全部反映させた状態で「本当にこれで正しいですか?」とボタンをポチするだけでいいのです。
そうなると年末調整はいらなくなります。みんな確定申告に戻るということです。今までそうしてなかったのは、自分自身で書かなきゃいけない、調べなきゃいけないという状態で、データだけにはなっているけれどもデータベース化されていなかったので連携もできませんでした。しかし今DXで進むとそれが全部できるようになったわけです。
今までは手作業だったので企業に年末調整させていましたが、それも今ネットワークで繋がっているのだから、全員確定申告でボタン1個でいいじゃないかということができるようになります。また、金融所得による純資産額が把握できるので、公平な給付にも恩恵があります。
まとめ(30:02)
金融所得を把握する最終的な目的は給付付き税額控除の実現です。社会保険料の不公平感を是正し、負担できる人に負担してもらうための必要不可欠な仕組みです。
この制度のメリットは3つあります。第一に、低所得の勤労者への補填により働く意欲が生まれ、就職氷河期以降の人たち、フリーランスやギグワーカー、非正規労働者への支援が届きます。第二に、消費税や社会保険料の逆進性を補正し、富の再分配による格差是正が進みます。第三に、生活保護と一律給付の中間のセーフティーネットとして機能し、子育て支援や医療・介護への直接支援も可能になります。
日本の再分配は高齢者中心で低所得労働者への支援が薄かったのですが、この制度によって改善されます。データベースや給付付き税額控除は格差是正という税の本来の目的を実現するものであり、政府は国民に分かりやすく丁寧に説明し、コンセンサスを得ながら進めていくべきです。
またこちらの動画「【これって金融所得課税?】投資の売却益・配当・利子を社会保険料に反映へ。35倍の負担増も。」では、75歳以上の配当・売却益の保険料反映による影響がどこまで出るのか解説していますのでぜひご覧ください。





