投資の売却益・配当・利子を社会保険料に反映へ。35倍の負担増も。これって金融所得課税?
投資の売却益や配当、利子を社会保険料に反映するというニュースが話題になっています。これは金融所得課税なのかという疑問が多く聞かれますが、実際には特殊で限られた対象者に関する制度変更です。
今まで制度の穴を利用して負担を軽減できていた方々に対して、公平性の観点からメスを入れる動きとなっています。この変更は勘違いされやすい内容なので、関係する人としない人をしっかり区別して理解することが重要です。現役世代の方も将来高齢者になることを考えると、特にFIREを目指す方や年金の繰り上げ受給を計画している方は注意が必要です。
ニュースの内容について(1:23)
日経新聞によると、高齢者の配当や利子について2020年代後半に保険料へ反映し、現役世代の負担を軽くする方針が示されています。この変更は現役世代にとって朗報ですが、将来必ず高齢者になることを考えると、老後資産設計やリタイアメントプランに大きく影響します。
特に211万円の壁と呼ばれる住民税非課税世帯を目指して所得を意図的に低く抑えようとしている方にとっては、制度の穴を埋める動きとなるため注意が必要です。この変更はほぼ決定事項で、2024年度の年金財政検証でも言及されており、社会保険の一体改革として以前から予告されていたものです。
政府は株式の配当や譲渡益といった金融所得を、高齢者の医療費や窓口負担に反映させたいと考えています。今までは確定申告をしている人は保険料や窓口負担に反映されていましたが、特定口座で源泉徴収ありを選択している場合は確定申告不要となり、保険料に反映されていませんでした。今回の変更で、これを反映させる仕組みを作ることになります。
75歳以上の人でも軽い医療費負担となっている金融所得の不公平を是正することが目的です。同じ年収500万円でも、ある人は年間1万5000円の負担で窓口負担1割なのに対し、別の人は年間52万円も払って窓口負担3割という不公平が生じています。
この是正のために、新たなデータベースを作成します。証券会社から受け取っている支払調書はすでに税務署に提出されていますが、それが活用されていませんでした。このデータベースを通じて、金融所得情報を75歳以上の後期高齢者医療制度を担う広域連合に伝え、住民税の課税所得と合わせて保険料の算定や窓口負担を決定する仕組みになります。
後期高齢者医療制度とは(6:14)
75歳以上の方は全員が後期高齢者医療制度に加入します。これは現役世代に入っていた健康保険や国民健康保険とは別の制度で、75歳以上の方を扶養に入れることができないため独立した制度となっています。現役世代が親を扶養している場合でも、75歳になると自動的にその扶養から外れ、後期高齢者医療制度で医療保険料を払う必要があります。
後期高齢者医療制度の保険料は、均等割と所得割の2つで構成されます。均等割は被保険者1人あたり必ず負担する金額で、所得割は前年の所得に対して約1割の負担となり、保険料の上限は80万円です。
所得割に含まれる所得は、前年の総所得金額および山林所得、株式譲渡所得や土地・建物の譲渡所得の合計から基礎控除を引いた額です。実は株式譲渡所得はすでに含まれることになっているのですが、特定口座で源泉徴収ありを指定していれば確定申告不要となり、ここに含まれていませんでした。
所得が低い人には軽減措置もあり、最大で7割の軽減があります。東京都の例では均等割が4万7300円ですが、7割軽減になると約1万5000円になります。所得が低く基礎控除の範囲内であれば所得割もないため、年間の保険料が約1万5000円となります。
財務省の試算によると、75歳以上で配当収入だけで年間500万円の場合、確定申告をしない場合の医療保険料は年間約1万5000円で窓口負担は1割です。一方、確定申告に含めた場合は医療保険料が約52万円となり、窓口負担は3割になります。この差が約35倍という大きな開きを生んでいます。
今回のニュースを一言でまとめると、75歳以上の方で金融所得があり確定申告をしていない人も、窓口負担と保険料の算定にその金額を含めるということです。したがって、75歳未満の人には関係がなく、75歳以上でも金融所得がない方やNISA取引のみの方には全く関係ありません。つまり対象は75歳以上の富裕層で金融所得で生活されている方に限られます。
今後どうなっていくのか(11:35)
今回の変更は後期高齢者医療制度が対象ですが、今後これが拡大していく可能性があります。まず窓口負担の仕組みを理解する必要があります。
6歳未満の子どもは全員2割負担ですが、実際には自治体が負担している場合が多いです。6歳以上で70歳未満の方は収入によらず全員3割負担です。したがって70歳までの方は、今回の窓口負担の変更に全く関係ありません。
70歳以降になると2割負担と3割負担に分かれます。70歳以上75歳未満の方は国民健康保険に加入しており原則2割負担ですが、現役並みの所得がある方は3割負担です。75歳以上は後期高齢者医療制度に加入し、一般的な方は1割負担、一定の所得以上の方は2割負担、現役並みの方は3割負担となっています。
窓口負担 関係する人 関係しない人(14:13)
関係ない人は、NISA口座のみで投資している人と70歳未満の人です。ただし、今後NISA以外で運用している人や1800万円の枠を超えて運用している人は、70歳以上になると関係してきます。
関係する人は、70歳以上の高齢者で所得が比較的少なく金融所得メインで生活される方です。年金の繰り上げ受給をして年金額を低くし、軽減措置を受けながら老後資産から取り崩して生活しようと考えている人が該当します。NISA口座から取り崩している間は影響を受けませんが、課税口座から売却してくる場合は関係してきます。
FIREを目指す方や、所得が低くて課税口座からの取り崩しで生活しようとする方は基本的に対象になります。家族信託を想定されている方で家族からの報酬を受け取る場合は雑所得になるため確定申告が必要で、すでに制度に含まれています。
高額療養費制度や介護保険の負担金額も反映される可能性が高いです。持病がある方で収入を低く抑えて各種負担を軽減しようと想定していた方は、来年度や再来年度からはこの恩恵を受けられなくなる可能性があります。
回避する方法はあるのか?(18:36)
この制度変更を回避する方法はほとんどありませんが、一つだけ考えられる方法があります。それは、子どもなど信頼できる家族に生前贈与をして仕送りをもらうという方法です。
現役世代は70歳まで3割負担が確定しているため、資産を現役世代の家族に渡して仕送りとしてもらえば、これは贈与に当たらず所得にも含まれません。さらに75歳未満までは扶養に入れる可能性もあります。
ただし、この方法には家族関係の維持や兄弟間の問題があり、子どもがいない単身の方などには使えません。アナログな方法ですが、現時点で考えられる唯一の回避策といえます。
保険料負担 関係する人 関係しない人(20:09)
保険料負担について関係ない人は会社員です。健康保険料は標準報酬月額から決まるため、今回の政府発表には会社員は含まれていません。ただし、今後どうなるかは分かりません。
関係する人は、75歳以上で金融所得が一定額ある人です。課税口座からの金融所得が一定ある人は影響を受けるため、NISA口座を活用していかないと負担が大きくなります。
後期高齢者医療制度から導入し、まず不公平をなくすことから始めます。それでも足りなくなった場合は、段階的に窓口負担が上がり、最終的には3割負担に変わっていきます。
次におそらくメスが入るのは国民健康保険です。75歳未満の現役の方で事業収入や年金収入がある方で、金融所得が一定数ある人が対象になります。課税口座で取引していれば政府は把握しており、それを反映させていこうという試みです。
次のステップとして会社員も対象になるのではないかという懸念がありますが、会社員の健康保険料は標準報酬月額で算定しているため、この制度を変えない限り難しいと考えられます。したがって、会社員に逃げ込むというのが一つの手段となりますが、75歳以上になると後期高齢者医療制度には必ず入ることになるため逃げられません。
年金収入があって金額が少なく金融所得で生活している方で子どもの扶養に入っている場合、扶養の要件さえ満たせば基本的に関係ありません。ただし、健康保険組合によっては金融所得も扶養要件に含める別規定がある場合があるため、その場合は特に注意が必要です。
まとめ(27:56)
今回のニュースは、政府が金融所得を保険料や窓口負担の算定に含める方向で進めているという内容です。将来的には窓口負担を3割負担にシフトしていきますが、まず不公平をなくすことから始めます。
制度の穴を利用して格安の保険料や窓口負担で済ませようとする方法もありますが、王道で進んだ方が最終的には良い結果になります。政府も把握していたデータを反映させることで不公平がなくなっていくのは、基本的な原則です。
ただし、今後のリタイアメントプランや老後資産設計に影響してくるため、その時にどう対応すべきか、どこに気をつけるべきかを考えるきっかけにしていただければと思います。
またこちらの動画「《老後資金が不安…》老後65歳に必要な貯蓄額は?【医療費編】」では、老後の医療費の目安や備え方を具体的に解説し、「老後にいくら用意すれば安心か」を医療費の観点から整理していますのでぜひご覧ください。





