新NISA「毎月分配型」見送りへ。老後に選ぶべき”本当の”受け取り方

金融庁が税制改正要望に盛り込んでいた毎月分配型投資信託について、見送りの方向となったニュースが報じられました。

この決定の背景と、今後利用できる「定額売却サービス」について解説します。

金融庁の税制改正要望について(0:56)

金融庁は毎年夏頃までに税制改正要望を提出し、それを元に政府が精査した上で、12月末頃に税制改正大綱を作成します。その後、翌年の通常国会で法案を通し、4月以降に順次施行されるという流れになっています。

今回の税制改正要望では3つの主要項目が提示されていました。1つ目はこども支援の一環として、つみたて投資枠の対象年齢を0歳からに引き下げる提案です。2つ目が今回注目されている対象商品の拡大で、特に高齢者向けに毎月分配型投資信託を新NISAに加えるという内容でした。3つ目は非課税保有限度額の当年中の復活という内容で、こちらはほとんど反対がないため採用される見込みとなっています。

金融庁は資産運用立国議連からの提案を受けて、債券比率が高めの商品や新たな株価指数に連動するインデックス商品などと併せて、毎月分配型投資信託の追加を検討していました。しかし、ここに来てこの毎月分配型投資信託については断念する方向となったのです。

見送りの理由は明確で、手数料が高いという点に尽きます金融庁としては、この問題点を重視して要望を取り下げることを決定しました。

毎月分配型投資信託は、老後の資産運用というよりも資産活用期に入っている方のための制度として検討されてきました。しかし断念する一方で、そうしたニーズに応える形として金融庁が打ち出したのが「定額売却サービス」です。金融庁は新NISA口座を取り扱うすべての金融機関に対して、この定額売却サービスの提供を働きかけ、義務化する方向で動いています。

「定額売却サービス」の要望について(3:39)

そもそも毎月分配型投資信託は必要ないという考え方があります。インデックス投資として投資戦略があるのであれば、その投資のまま運用を続け、資金を引き出したい場合は証券会社にある定期売却サービスを利用すれば同じことができるからです。投資信託に分配機能を持たせるのではなく、資金管理は金融機関のサービスで行うべきだという考え方です。

投資信託に求められるのは、できるだけ安い手数料で購入でき、効率よく投資ができて、希望する投資戦略に沿った商品であることです。投資は保険を買うのとは違い、間接投資ではあっても手数料が安く、自分で購入するものを選べるという特徴があります。したがって、手数料の安さと効率的な運用ができることが重要な判断基準となります。

この定額売却サービスは、実はすでに一部の金融機関で利用可能となっています。SBI証券と楽天証券という大手ネット証券では、すでに定額売却サービスを提供しており、現時点で新NISA口座での利用が可能なのは楽天証券のみとなっています。

SBI証券については、プレスリリースで2025年中にサービス拡充を予定していると発表しています。定額売却に加えて定率売却も可能になり、新NISA口座にも対応する予定です。2026年以降は、楽天証券とSBI証券の両方で新NISA口座での定額売却サービスが利用できるようになる見込みです。

金融庁が今回要望しているのは、これら大手ネット証券以外の金融機関、特に銀行や小規模な証券会社に対してです。まだ新NISA口座で定額売却ができない金融機関に対して、金融庁がこのサービスの提供を義務化していく方向となっています。

ただし、この義務化には課題もあります。システム改修が必要となり、さらに新NISA口座では金融機関の収益が少ないため、投資が必要となる点が参入障壁となる可能性があります。それでも、投資商品ではなく金融機関のサービスとして対応すべきという考え方から、対応しない金融機関には新NISA口座の取り扱い停止や行政指導などの措置が取られる可能性もあります。

定額売却サービスを使えば、毎月分配型投資信託と同じことができます。たとえばオールカントリーを保有している場合、定期的に売却することで、オールカントリーを毎月分配型投資信託に変えることができるのです。

資産活用期において定期売却を利用する場合、定額方式の方が適しています。資産形成期はお金を増やしていく期間ですが、老後に入ると実際にそのお金を使っていく資産活用期に移行します。この資産活用期には一定額を取り崩していくことになります。

定率売却、定額売却、口数売却などの方法がありますが、基本的には定額売却の方が使いやすいでしょう。毎月の生活費は大体固定されており、給与で毎月ほぼ一定の金額が入ってきて、家賃などの固定費や食費、光熱費などを支払って生活しています。年金では足りない分を、資産形成で作った老後資金から一定額取り崩していけば、年金と合わせて必要な生活費を確保できます。資産の割合や口数で何年以内に売却しなければならないというものではなく、定額で売却した方が確実に生活設計ができるのです。

まとめ(9:21)

高齢層向けの毎月分配型投資信託という話が進められていましたが、金融庁がまともな結論に達したことは非常に良い判断だと言えます。もし新NISA口座で毎月分配型投資信託が認められていたら、手数料が非常に高い商品が多数入ってくる可能性がありました。

投資を継続しながら一定額を使うタイミングである資産活用期において、それが新NISA口座内でできれば理想的です。資産形成から取り崩しまで、新NISA口座で同じ効果として実現できるものがある以上、定額売却サービスの方が優れています。

手数料の高いアクティブファンドも多く、アクティブ運用自体が悪いわけではありませんが、通常はインデックス投資で十分です。分散投資をしてアセットアロケーション運用を行い、新NISA口座で運用できれば最適と言えます。一度アセットバランスに応じた一定額の取り崩し設定をすれば毎月自動的に入ってくるため、少しの資金移動だけで生活口座に資金を移すことができます。こうした簡単な仕組みで運用できるなら、手数料1%程度を払う必要はなく、十分な恩恵を受けられるでしょう。

ただし、まだ新NISA口座で定期売却ができない証券会社や金融機関が多いため、金融庁がこれらの機関に対してサービス提供を要望していく方向で進んでいます。SBI証券も年内にはサービス開始予定となっており、それが実現すれば新NISA口座の使い勝手は大幅に向上するでしょう。

実際に定額売却サービスを利用する際には、どれくらいの金額を売却すればよいのか、年金は手取りでいくらもらえるのかといった情報が必要になります。また、分散投資している場合には、それぞれの資産からどのように売却していけばよいのかという出口戦略も重要になってきます。こうした老後の資産設計や老後資金について学ぶことで、より効果的な資産活用が可能になります。

またこちらの動画「【NISAでも要注意!】実は分配金の9割が元本取り崩し…毎月分配型の真実」では、毎月分配型投資信託の分配金の正体や手数料の実態、制度面と金融機関のビジネスモデルの問題、そして資産形成におけるリスクを徹底解説していますのでぜひご覧ください。