金融庁レポートで判明。確定拠出年金の闇3選
2025年6月27日、金融庁が毎年公表している「プログレスレポート」が発表されました。このレポートは金融業界の現状を詳細に分析したものですが、マスコミ各社による報道はほとんどありません。
確定拠出年金は法改正によって注目が高まっていますが、その運営実態には深刻な問題が潜んでいます。今回は金融庁レポートの内容をもとに、確定拠出年金の「光と闇」について解説します。
企業型DCの収支構造(2:34)
レポートによると、企業型DCの運営管理機関の半数が赤字です。信託報酬を除く手数料のみで考えると、全社が赤字という状況が明らかになりました。

出典:金融庁
企業型DCの仕組みを整理しましょう。事業主は運営管理機関に手数料を支払い、運用商品の選定や加入者への情報提供、投資教育を委託しています。一方、投資信託の販売を担う商品提供機関が存在し、現在は運営管理機関と商品提供機関が一体となっているケースが多くなっています。
運営管理機関は手数料収入だけでは赤字ですが、商品提供機関として得られる信託報酬と合わせることで、ようやく半数が黒字となっています。
企業型DCの収支構造のデメリット(5:01)
この収支構造は加入者に大きな不利益をもたらしています。運営管理機関が手数料だけでは採算が取れないため、信託報酬の高い商品を選定せざるを得ない構造になっているのです。
大手11社が全体の9割を超える資産を保有する一方、運営管理機関は160社を超えています。過当競争がコスト削減を妨げる要因となっています。
さらに深刻なのは、DXの遅れです。iDeCoの申し込みは未だに紙ベースで行われ、転職時の移換手続きには1つの口座につき約2ヶ月かかります。複数の口座を同時に移換することもできず、その間は運用もできません。
システム改修の予算は、赤字体質の運営管理機関には確保できません。商品提供部門の方が組織内で優位な立場にあるため、運営管理部門に予算が回らないという構造的問題があります。
iDeCoの収支構造(9:00)

出典:金融庁
iDeCoにも同様の問題があります。加入者が支払う手数料の7割から8割は、記録管理を担うレコードキーパーに流れています。レコードキーパーは運営管理機関が拠出して設立されており、互いに余裕がない状態です。

出典:金融庁
適切な商品選定も行われていません。TOPIXに連動するインデックスファンドで、実質信託報酬が0.3%以上のものが、保険会社では約20%、地方銀行や信用金庫では約18%も存在します。
運営管理機関が赤字のため、商品提供機関として信託報酬で収益を確保しようとする構造が、手数料の高止まりを招いています。低コストの良い商品が登場しても、入れ替えると赤字になるため、運営管理機関にはインセンティブがありません。

出典:金融庁
海外株式のMSCI KOKUSAIに連動するインデックスファンドは、0.3%以上の高コスト商品は少ないものの、そもそも採用数が圧倒的に少ないという問題があります。証券会社ではTOPIXの採用が約260件あるのに対し、MSCI KOKUSAIは1件のみです。
企業型DCでは企業が設定した商品しか選択できないため、先進国株式ファンドが選択肢にないケースも実際に存在します。
2024年9月時点で、企業型DCの加入者数は約900万人、iDeCoは約440万人ですが、資産額は合わせても30兆円に達していません。これに対し、確定給付企業年金は加入者数約887万人で資産額69兆円、NISAの買付累計額も59兆円となっており、確定拠出年金の規模は限定的です。
一番の解消は金額を増やす(15:05)
この問題を解消する最も効果的な方法は、拠出金額を増やすことです。2025年5月の法改正により、サラリーマンの拠出上限が月2.3万円から6.2万円に増額されることになりました。
金額が増えれば、収益構造は改善します。国民の総資産約2,000兆円のうち500兆円程度が運用されるようになれば、状況は大きく変わるでしょう。
同時に、160社を超える運営管理機関の整理も必要です。厚生労働省や金融庁による参入規制や行政指導によって、DXを進められる体力のある機関だけを残すべきです。
iDeCoでは運営管理機関への手数料を0円にしている金融機関が多くありますが、これによってサービス改善やDXが進まないという問題も生じています。
まとめ(17:39)
確定拠出年金には、法改正による拠出上限の増額という光の部分がある一方、運営体制の持続可能性という闇の部分も存在します。
運営管理機関の選定における金融機関との癒着や、企業側が強すぎて金融機関がディスカウントを強いられている構造など、様々な問題が見え隠れしています。
老後資産設計において確定拠出年金は最も有効な手段です。この制度を真に国民の資産形成に貢献するものとするために、構造的な問題の改善が急務となっています。
またこちらの動画「【転職経験者は要確認!】企業型DC放置でiDeCo自動移管難民に。80万人のお金が毎月減っていく理由」では、転職者が気を付けたい自動移管について詳しく解説していますのでぜひご覧ください。





