退職金で失敗しない!投資とファイナンシャルプランの話
本記事では退職金をどの程度投資すべきかという疑問に対し失敗を避けるための判断基準を徹底解説します。老後資金に不安を抱える方に向けて投資だけに頼らない計画的な資金管理方法を解説しておりファイナンシャルプランの重要性や生活設計の見直しポイントが学べます。
これから退職を控えた方やすでに退職後の生活を考え始めている方にとって有益な内容です。
キーポイント
投資において必要なのは期間である (00:00:00)
投資を考える上で最も重要なのは「資金力」ではなく「期間」です。投資は短期間で結果を出すものではなく、ある程度の期間をかけて資産を育てるものだからです。したがって老後資金の準備に際してもどれだけ早くから準備できるかが大きな分かれ道となります。
多くの人は退職金が入った段階で「どれだけ投資すべきか」と考えがちですがそもそも「投資してもいいかどうか」の判断には期間という前提が必要になります。仮に60歳で退職しすぐにお金を使う予定がある場合、その資金を投資に回すにはリスクが高すぎるのです。
期間の確保ができるということは投資の力を最大限に活用できるという意味でもあります。投資で得られるリターンは時間の積み重ねによって安定してくるため最低でも10年、理想としては15年以上の運用期間を想定する必要があります。特に「全世界投資」のような資産分散・時間分散を重視する投資スタイルではこの期間がとても重要です。
つまり退職金を投資するかどうかは運用期間の余裕があるかどうかに大きく左右されるのです。これから投資を検討する方はまず「使う予定はいつか?」という視点から計画を立てるようにしましょう。
投資の判断にはファイナンシャルプランが不可欠 (00:02:22)
退職金の一部を投資に回すにあたり「いくら投資するか」の答えは単純ではありません。なぜならそれは人それぞれ異なる生活設計やライフスタイル、資産状況に大きく依存するからです。ここで必要なのが包括的なファイナンシャルプランの作成です。
ファイナンシャルプランとは将来の生活設計を数値ベースで可視化するための計画書を指します。これを作成することで老後に必要な金額、年金やその他の収入でどの程度賄えるのか逆にどれほど不足しているのかが明確になります。この「足りない金額」を埋める手段として初めて投資の必要性が出てくるわけです。
投資判断を誤らないためには自分が将来使うお金の金額(必要資金)と使うまでの期間(投資可能期間)を知っておくことが不可欠です。「投資期間」「必要金額」「投資額」の三つの変数のうち2つが分かれば残りが導き出せます。
多くの人は「いくら投資すればいいのか?」を知りたがりますがこれは「どれくらい必要なのか」と「どれくらい時間があるのか」を知らないと分からないものです。
そのためまずは自分のファイナンシャルプランを一度しっかりと作成してみることをおすすめします。それによって投資が本当に必要なのかそれとも現金のまま保有しておくべきなのか正しい判断ができるようになるのです。
老後の収入を正しく把握する (00:04:29)
老後資金の準備においてまずやるべきことは「収入」と「支出」の見える化です。
収入については退職してから100歳までの期間で考えてください。主に年金や退職金などが中心になります。公的年金を受給するまでは個人年金保険や企業年金が収入になる人もいるでしょう。それらの手取り額をできるだけ正確に出すことをお勧めします。
公的年金の受給額については「ねんきんネット」などを活用すればある程度正確な金額が把握できます。注意すべきは公的年金の額が将来的に減少するリスクが高いことです。現在の制度設計では給付水準の低下が避けられない見込みであるため、表示された支給額をそのまま信じてはいけません。現状の金額に0.62をかけることで、現実的な手取り額を試算できます。
年金を貰うタイミングと共働き世帯の注意点(00:09:10)
年金をいつから貰えばいいか悩む人もいるでしょう。しかしまずはモデルケースを作成することが重要であるためひとまず65歳で設定します。一度すべて把握した後に受給タイミングの前倒しや後ろ倒しを検討します。
ここで注意すべきなのは共働き世帯です。共働きの場合、二人とも厚生年金を受給できる可能性が高いため入る金額は大きくなります。しかしどちらかが亡くなるとその分の年金が入らなくなるため特に年齢差が大きくある夫婦はよく考える必要があります。
現状を維持した支出額を計算する(00:11:58)
次に支出を書き出します。支出に関しては現状を維持する前提で計算するのが基本です。現時点での家計管理がしっかりできていればそれをベースに老後も同じ水準の生活を維持する前提で考えます。子どもがいて将来的に構成人数が減る場合はQGS(クォーターグリッドシステム)を活用して計算が可能です。
なお老後は基本的に貯金を取り崩していく生活です。そのため積立貯蓄や積立投資の分を支出に加える必要はありません。
老後に発生しやすい医療・介護に備える (00:14:44)
さらに重要なのが医療・介護費の備えです。現役世代の場合、生活防衛資金として1人あたり50万円から100万円、または1家庭あたり100万円を備えておくことを推奨していますが老後はこれ以上の金額が必要です。
老後には医療費や介護費がかかってきます。1人あたり500万円ずつ、計1,000万円を目安にするとよいでしょう。余裕を持ちたい場合は夫婦で2,000万円を準備するのが理想的です。
もし夫婦のどちらかが介護をする場合は介護費を抑えることもできます。その場合は2人で1,000万円とすることも可能です。
不足資金の洗い出しとストック・負債の管理 (00:16:53)
収入と支出を把握した後、次に行うべきは「不足資金」の明確化です。この不足資金こそが退職金から投資すべき金額の根拠となる部分です。老後にどれだけのお金が足りなくなるかを見積もることによって投資の必要性と規模が初めて具体的に判断できるようになります。
まず不足資金の計算には「ストック」と「負債」の概念が重要です。ストックとは退職時点で保有している資産のことです。退職金、預貯金、iDeCoや企業型確定拠出年金、NISA口座などもここに含まれます。これらはすぐには現金化されないものもありますが老後資金に使える資産としてカウントされます。
一方、負債は借金のことだけではなく将来的に発生する「まとまった支出」のことも含みます。例えば、車の買い替え、マイホームのリフォーム、長期旅行などは、老後においても実現したいと考える方が多いでしょう。これらを計画に入れておかなければ、いざ必要になったときに資金が足りずやむなく諦めるという事態になりかねません。
これらをすべて含めた上で収入と支出、資産と負債のバランスをとったとき、果たして自分の人生設計は黒字で進められるのか、それとも赤字になるのかが見えてきます。赤字であるならばそれをどう補うかを考えるステップへと進みます。
老後資金不足に対応する5つのステップ (00:20:34)
老後資金が不足することが分かった場合、焦って投資に走るのは危険です。そこで重要になるのが「不足資金にどう対処するか」を冷静に考えるための5つのステップです。
最初のステップは「生活レベルを下げる」こと。つまり支出の見直しです。支出を減らせばそれだけ必要な老後資金も減ることになります。
次に考えるのは「投資の活用」です。ここでようやく退職金の一部を投資に回す判断が出てきます。ただしこの投資にも前提条件があります。それは「10年以上の運用期間」が取れることです。使う時期が近いお金を投資に回すのは危険です。たとえば75歳以降に使うお金なら60歳時点で投資を始める価値があります。
三つ目のステップは「リタイア年齢の繰り下げ」です。つまり働く期間を延ばすという選択です。65歳でリタイア予定だったものを70歳まで延ばすことで年金の繰り下げ受給による増額効果も見込めますし資産を減らすペースも緩やかになります。
四つ目のステップは「大きな支出の時期を先送りする」ことです。例えば65歳で予定していたリフォームを75歳にずらすことでその資金に投資の時間を与えることができます。支出の時期を遅らせることでキャッシュフローの改善につながります。
最後のステップは「諦める」こと。これはただ我慢するのではなく自分にとって本当に必要な支出を明らかに見極める作業です。無限にある願望の中から限られた資金で実現できるものを選ぶという判断です。これは単に「削る」のではなく「選び抜く」作業でもあります。
これら5つのステップを順番に試していくことでようやく退職金をどれだけ投資すべきかという判断ができるようになります。言い換えれば投資は最後の手段ではなく計画の中盤で登場する「調整手段」のひとつにすぎません。
まとめ
退職金を投資に回すべきかどうか、その判断は非常に複雑で単に「いくら投資すれば増えるか」という視点では解決しません。老後資金の問題は収入・支出・資産・負債のバランス、そして将来への備えがすべて噛み合って初めて最適な解が導き出せるものです。
本記事で紹介したファイナンシャルプランの作成はまさにその出発点です。自身のライフスタイルを見直し現実的なシナリオを数値で捉えることで投資が必要かどうか、どれだけの資金をどの期間で運用すればよいかが見えてきます。
これから退職を迎えるすべての方が安心して豊かな老後を過ごすための一助になれば幸いです。
またこちらの動画「《年金はもらえない!?》「年金が破綻する」は危険思想!?【年金財政検証2024】」では現在の年金事情について解説しています。
さらに老後に必要な医療費について詳しく知りたい方はこちらの動画「《老後資金が不安…》老後65歳に必要な貯蓄額は?【医療費編】」をぜひご覧ください。