
MoneySense代表のシュウAs浅田修司です。
前回までのメールで震災についての私の想い、そして今後のマネーセンスのあり方についてお話させていただきました。
といっても、何か目新しいことをするわけではなく『今までどおりのことを今までどおりすること』が重要であり、マネーセンスとしてはこれまで以上に『投資を伝えていくこと』に力を注いでいくということです。
今日はこの想いを裏付ける経済についてお話ししようと思います。
なぜ震災後も日本は円高なのか?
震災後、
- なぜ日本は円安にならないのか?
- なぜ円高になっているのか?
ということについてあちこちで議論されていました。
私としては、「円安になるほうがおかしいんだから、円高になるのは当然だろう」くらいの気持ちで構えていましたが、経済についてはどちらかといえば詳しい方だと思う私の父も「なぜ円安にならないのだろう?」と言っていたので、これはどうやら多くの人が疑問を抱いているようです。
よく見かけるものは、「日本の企業が国内の工場を復興させるために海外の資産を売って円に交換した」とか、「損害保険の支払いの為に保険会社が海外の資産を円に交換した」とか、ミスターニュースと言われている池上彰さんは「それらをチャンスと捉えた海外投資家が円買いに走った」といっていました。
たしかにそういった側面もあります。短期的に見ればそれらの影響はあったかもしれません。しかし、長期的に見ればそれらの理由は支流であって本流ではありません。
日本の円高の大きな原因は
- 日本の経済構造
- 投資家感情の冷え込み
にあります。
そもそもなぜ大規模な天災が発生すると通貨安になると思われているのでしょうか?
はじめにお話しておきます。
大規模な天災だろうが人災だろうが「危機」が起きたからといってその国の通貨が安くなるなんて、なにも決まっていません。
そのように話しているアナリストや評論家がいたなら、明らかな間違いですし、聞く価値はありませんので、聞き流してください。
為替は常に需給関係のみで動きます。(強いて言えばすべての市場は需給関係のみで説明できます)
当たり前すぎて、書いている自分でも恥ずかしいのですが。。。
理由について、これからできるだけわかりやすくお話していきます。
例えばこれが後進国、新興国とよばれている国であればその国の通貨安が起こることが普通です。それは、多くの場合、「貿易赤字国」であり、「債務国」だからです。
後進国とよばれる国は輸出より輸入が多いためほとんどが貿易赤字です。自国に技術力がないため先進国から技術を輸入します。生産技術もそうですし、モノとしてはパソコンや車などですね。
もちろん輸出もしていますが付加価値をあまりつけられないため輸入額に比べると輸出額は相対的に小さくなってしまいます。
そのため自国通貨は海外へ流出する一方になります。これはつねに自国通貨安になる要因を持っていることになります。
くわえて、後進国が未曾有の大災害に襲われるとどうなるでしょうか?
後進国のほとんどが債務国です。国内経済が衰退し、債務の返済が滞るリスクが高まり、自国通貨が売られます。
普段通り平和なときであれば、債権国であろうが、債務国であろうが、あまりクローズアップされません。
しかし、災害がおきたり、大不況のような危機は起きると、債務国の場合、国の財政が破綻するリスクが高まり、
その国の通貨を持とうとする人が減ります。持っていた人もリスクを感じて手放していきます。
これは通貨安の原因になります。
つねに通貨安の力が働いている後進国は大災害にあうとさらに輪をかけて通貨安が進んでいきます。
これが貿易赤字であり債務国である後進国が大災害を受けた時に通貨安となっていく仕組みです。
では後進国の経済の仕組みが分かったとして、日本の経済構造はどうなっているのでしょうか?
日本は世界一の債権国で貿易黒字国
経済構造の裏づけがあるから自国通貨安が起こるのです。
では日本の経済構造はどうなっているのでしょうか?
あなたもご存知の通り日本は世界最大の債権国であり、貿易黒字国です。
2011年5月30日のニュースに、2010年末時点で中国の対外純資産は約144兆円と発表されました。
日本の対外純資産は約250兆円ですから、日本は世界一の債権国の座を維持しました。2倍弱の圧倒的な差をつけての世界一です。
貿易黒字はわかりますよね。日本から輸出するほうが輸入するより多いということです。
日本は原材料を輸入して、高い技術力で加工し、製品化して海外に売っています。
貿易黒字ということは、貿易で製品を売って儲かっているのですからその儲けは外貨で受け取ります。
しかし外貨では日本国内で使えないため、日本円と両替をします。日本円を買い、外貨を売ることになりますね。
これは円高の要因になります。
世界最大の債権国ということは、海外に投資したお金がたくさんあるということです。
その投資したお金が利益を生みます。海外での利益ですから外貨で利益が出ているということであり、
その外貨を日本円に換える必要があります。これも円高の要因になります。
つまり経済構造を考えれば日本は常に円高方向に動く力が加わっているということになります。
- 後進国は債務国で貿易赤字
- 日本は債権国で貿易黒字
まったく反対の経済構造になっているのです。同じ災害が起こったとしても反対の動きになるのは想像がつきます。
しかも現在は全世界的な不況です。なにも後進国の債務返済が滞るリスクは災害だけではありません。この世界的な不況も当然リスクを高める結果になっています。
リスクが高まって債務国から出て行くお金の流れの行き先は、当然、債権国ですよね。世界一の債権国である日本にますます流れてくるのは自明の理というわけです。
日本が災害に見舞われたとしても、世界一の債権国をよりどころに日本円に集まってくるつまり円高になることもうなずけます。
さらに、ほかにも日本の経済構造で円高にさせる要因が存在します。
日本はまだデフレを脱却できていない
さらに言えば日本はデフレ(物価下落)です。デフレの国は通貨高(この場合、円高)になるといわれています。
メカニズムはこうです。
同じ車が日本、アメリカ両方で売られていて、日本国内では100万円で、アメリカでは1万ドルで売られていたとします。
このとき1ドル=100円であればどちらで買っても同じ価格ですよね。
では、為替が変わらずに日本のデフレにより車の価格が日本でだけ80万円まで下がったとします。
そうなると日本で売ってもあまり利益がでません。一方、海外へは価格競争力があるので、輸出してアメリカで売ったらどうでしょう?
アメリカ人はなにも変わらないのに、価格だけが安くなったわけですからこぞって買いに来ます。輸送コストを考えてもこちらのほうがよさそうです。
車を売った代金はドルで受け取ることになります。ドルのままでは日本で使えないので儲けたドルを日本円に両替します。ドルを売って、円を買うので円高に進みます。
この場合、輸送コストなどほかの要因を考えなければ「1ドル=80円」になるまでこの動きは続くことになります。
今の日本が円高方向に動いているのはけっして不思議なことではないのです。
さて、本当にデフレが脱却できていないのか?という疑問もあります。なぜなら、消費者物価指数は微増しているからです。日銀もことさらデフレ脱却をちらつかせています。
しかしその内訳を見てみると食料や生活必需品は確かに物価上昇しているものの、不要不急のものや高級品は下落し続けています。
消費者が生活のゆとりをなくすような状況では、個人消費が活発化してインフレになるような正常なインフレとは言えません。
安易なインフレターゲットも意味がありません。インフレさせますといわれても、給料が上がらないのであればますます消費を抑えるしかありません。
消費者にとってデフレは味方です。インフレは敵です。
しかし、購買力が上昇し、それ以下のインフレであれば(と予想すれば)、実質所得は上昇するわけで、消費は増えていくでしょう。この場合のみインフレは味方です。
つまり、実質所得(購買力)が増えるなら消費者はどんな政策でも肯定するでしょう。
MoneySenseで以前から申し上げているように、デフレ・インフレの状況把握については、名目GDPと実質GDPの差で図るべきで、その差は拡大傾向であれ、縮小の兆しは見えません。
次回は、では今後の日本の経済構造に変化は起きる可能性があるのか?私たちはどういった行動を取ればいいのか?おそらくみなさんが一番聞きたいだろうと思うことをお話していきます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。